「俺なんかより、ともの方がずっとすごいだろ!」

 キャンプから帰った数日後。いつものように「すごい」を連発するともに腹が立って、ちょっと怒った。

「なんで?」

 俺に怒られた理由が分からないと言った感じで、きょとんとした顔をしている。俺はますます腹が立った。

「だって、ともがあの人が危ないって言ったから、行ったんだ! あの人が助かったのは、とものおかげだ!」

 ともには他の人が見えないモノが見えることを、俺はずっと前から知っていた。だけど、それがどういうことかはよく分かっていなかった。

 俺には色覚異常があって、他の人が見える色がよく分からない。だから、俺に見えないモノをともが見えると言っても、そうなんだとしか思わなくて、見えてすごいと思ったこともなかった。ともの見える力が、本当はすごいものなんだと思い知らされて、俺のプライドはズタズタになった。

 ずっと助けてきた、かばってきた奴が、俺なんかより、ずっとすごい奴だったんだ。

「でも、俺は見えただけで……」

「普通は見えない! 声を聞いた先輩だって、お化けと勘違いして逃げた」

「うん。すごく必死な感じで、しがみついてた。いつも見る幽霊とはなんか違ってて、助けてって声もすごく大きくて……とにかく、必死な感じがした」

 それを聞いて、ぞっとした。男の人の幽霊(生きてるから生霊か)が、誰かにしがみついてる姿なんて、かなり怖いだろう。なのにともは、平気な顔してカレーを食ってた。

「早く助けなきゃって思った。だけど、どうすればいいか分かんなくて、いつも助けてくれるばあちゃんもいなくて……」

 そういえば、何か変なモノを見たり聞いたりしたら、必ずとものばあちゃんに話す約束をさせられてたっけ。

「すごく困った。帰ってからばあちゃんに話して、それで間に合わなくて死んじゃったりしたらどうしようって思ってたら……あっくんが助けてくれた」

 真っ直ぐな目が、俺を見る。

「だから、あの人を助けたのはあっくんで、やっぱり、あっくんがすごいんだよ!」

 にっこり笑うその顔には、少しの曇りもない。

 ともはすごい力を持っているけど、人見知りだし、運動は苦手だし、ちょっとどんくさい。変なモノを見た時は、すぐばあちゃんに助けてもらうばあちゃんっ子。

「しゃーねえなぁ……」

「あっくん?」

「さっきは……怒って、ごめん……」

「あっくん、怒ってたの? ごめん、気付かなかった。何に怒ってたの?」

 心細げな目で、俺を見る。なんでともは、こんなすごい力を持ちながら、自分に自信を持てないんだろう?

 俺はちょっと乱暴に、がしがしとともの頭を撫でながら言う。

「また何か変なモノ見て困った時は、俺に言え! 俺が、助けてやる!」

 ともは、ぱっと顔を明るくして「うん!」と嬉しそうに笑った。

 俺はこの時に決めたんだ。


 このすごい力を持つともを助けてやれる、本当のヒーローになってやるって。






<了>

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