最初にそれに気付いたのは、1時限目後の休み時間。俺のノートを写すあっくんが落とした消しゴムを拾ってあげようとして、気が付いた。

「あっくん、ズボンに何か付いてる」

 黒に近いグレー色のせいで気付かなかったのだろう。あっくんの足首に、黒い汚れが付いていた。

「どこ?」

 机の下から足を出し、左右に動かしながら探している。結構大きい、手のひらくらいあるのに、あっくんは分からないようだ。あっくんは目があまり良くないし、似た色合いで目立たないから見えないんだろう。

「ここだ……、いてっ!」

 代わりに払おうと思って手を伸ばし、汚れに指先が触れた瞬間、パチッと小さな音と小さな痛みが指に走った。そして、払ってもいないその汚れは、しだいに薄くなって消えた。

「とも、どうかしたか?」

 呆然とその様子を見ている俺の頭上から、あっくんの心配そうな声が降りかかる。

「何かあったか?」

「あー……見間違いだったみたい」

「本当か?」

 訝しげな顔で俺を見る。さっきのは見間違いで、指の痛みは季節外れの静電気で、でも違うような気もして……半信半疑で何とも変な返事になったのが心配をかける原因になる。だから俺は、話しを逸らすようにノートを指差して言った。

「それよりあっくん、早くしないと休み時間終わるよ」

「やべっ」

 あっくんは慌ててシャーペンを走らせる。上手くごまかせたと安心していると、あっくんは顔も上げずに「何かあるならちゃんと言えよ」と言った。

 あっくんは心配症だなぁと思いながら、俺は「分かった」とだけ答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る