「とも。コンビニ行こう」

「うん。いいよ」

 ゲームがイマイチ盛り上がらない。

 そりゃ、俺はレベルが低くてともがサポート役なのは分かっているけど、ここまで片手間だと気分が悪い。気分を変えるために、子犬に声をかけられない外に連れ出すことにした。



「子犬、いるのか?」

「子犬じゃなくて、ハチね。散歩に出るのが嬉しいみたいで、はしゃぎ回ってる」

 下を見たまま笑って答えるともが、ちょっと気持ち悪い。

「ハチに話しかけるなよ」

「分かってるって」

 話しかけはしないけど、目はずっとハチを追いかけている。ずっと足元を見ていた目が、前方に移動したと思っていたら、小さく「あっ」と声を上げた。

「どうした?」

「あ、ごめん。声、出しちゃった……」

「あれくらい大丈夫だ。それより、どうした?」

「ハチが走って……横道に入って出て来ない」

「なんだそれ? 飼い主ほったらかして、いなくなったのか?」

「いなくなったわけじゃ……ちょっと追いかけていい?」

 俺の返事も聞かないまま、走り出す。

「ハチーーー!!!」

 路地を曲がった途端に上がったともの大声に、驚いて足を止めた。

「ハチ! そればだめ! 放しなさい! ぽいしなさい!」

「おい! ちょっと声、抑えろ」

 狭い路地の向こう、誰もいない場所に向かって大声を張るともをたしなめる。通り掛かる人達から向けられる、不審者を見るような目が痛い。

「ごめん……思わず……」

 そう答えながらも、何もないところに向かって小さく手招きしている。

「どうした?」

「ハチが……」

 ハチが遠くに行ってしまったのか、さっきより手招きの動作を大きくしながら言った。

「手を拾ってきた」

「て?」

「手を咥えて、持って来ようとした」

 あれかな? たまにドラマとかで見る、散歩中の犬がバラバラ死体を見付けて、腕とかを飼い主に持って来ちゃうやつ。

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