「呼び出してごめんねー」
狐に案内されて来たのは、ダイニングキッチンだった。最初に案内された客間とは、廊下を挟んで反対側の奥にある。古びた開き戸を開くと、中がきれいなシステムキッチンだったことに、正直驚いた。
「どうぞ座って」
「あ、はい」
ダイニングチェアの1番近い椅子に座ると、お茶とお菓子を出してくれた。
「こんな物しかないけど、良かったら食べて」
「あの……ありがとうございます。いただきます」
とりあえずお茶をすする。神山が出してくれたのよりずっと上品できれいなグラスだけど、中のお茶は同じでちょっと安心した。
「えーと、いろいろあるけど、まずは……ごめんなさい!」
「ふえっ?」
向かいに座ったお母さんが、勢いよく頭を下げた。
「優輝が随分迷惑をかけたみたいで……本当にごめんなさい!」
「あー、えっと……」
「人が来る時は、大人しくするように言い聞かせてるんだけど」
なんて返事をしたら良いのか分からない。まあほとんどのことは気にしてない。だけど、1つだけ……
『聖子。彼、お守りのことを気にしているわ』
狐はひらりとお母さんの肩に飛び乗った。それがいつものことなのだろう。肩に乗った狐を気にした様子もなく、真っ直ぐに俺を見て話を続ける。
「ごんちゃんに聞いたわ。優輝が壊したって勘違いされたって。その壊れたお守り、見せてもらっていいかしら?」
俺はポケットから巾着袋を取り出し、お母さんに渡す。お母さんは袋の中身を手に出し、感心したような声を上げた。
「これはすごいわね。こんな小さな数珠に」
ばあちゃんのお守りは、やっぱりすごい物だったんだ。
「でも、玉がずいぶん濁ってる。お守りとしての力は、かなり弱くなっていたはず」
「えっ? お守りの力が弱まるとか、あるんですか?」
思わず、身を乗り出し尋ねる。
「そりゃあね。何でもそうだけど、使っていたら減るでしょ? このお守りにしたって、念を込め直して清めてあげないといけないわ。いつからしてないの?」
「えっと……」
聞かれて思い出す。ずっと持っていたけど、時々、ばあちゃんがどこかに持って行ってた。どこに持って行ってるんだろうって不思議だったけど、きれいにしてくれてたんだ。
「それは、祖母が持たせてくれたお守りで、その祖母は3年前に亡くなって」
「それで、壊れたのはいつ?」
「家に入った瞬間に音がして。多分、その時に……あの、何か?」
なぜか、目を大きく開いて俺を見る。何か変なことを言ってしまったのかと、不安になる。
「メンテナンスなしで3年ももったの? これで、あの瘴気の中を歩いて来たの? 君みたいな子が?」
テーブルに身を乗り出して来た。俺は椅子の背もたれいっぱいまで下がり、こくこくとうなずく。なんか、気になるワードがいっぱいあったけど、聞く余裕はない。
「なるほど、仕事を全うしたから壊れたのね」
「仕事を全うしたって、どういうことですか?」
お母さんが、ぽつりとつぶやいた言葉を俺は聞き逃さなかった。俺は勢い込んで尋ねる。
「この家に、無事に届けるまでがこのお守りの仕事。後はお願いしますって頼まれたのよ、君のお祖母様に」
「ばあちゃんに!? それは、いつの話ですか?」
「さっき」
「…………」
もしかして、神山のお母さんとばあちゃんは、生前からの知り合いだったんじゃないかと勢い込んで聞いた俺の勢いは、あっさり削がれた。
初めて会った時から喋る狐と普通に会話したり、俺のことを死人と間違えたり、そういう能力のある人なんだろうなぁとは思っていたけど、3年前に死んだばあちゃんに、さっき会って頼み事をされたなんて……
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