「あーーー!!」
『まずい!』
「食べるの早いよ、もう! 跡形もなくなってるじゃない」
まるで一瞬の白昼夢。巨大化したように見えた狐は、前足でしきりに口を拭っている。食べられたように見えた女の人は、手に持つ木彫りの仏像を、探るように上に下にと動かしながら見ている。
「ごんちゃん、中に何が入ってた?」
『この家に害をなすもの』
「それは分かってる。かなり悪いものがいろいろ入ってる感じがしたんだけど……どういうの? いつの時代の?」
『そんなの知らない』
「もう! いっつもそうなんだから」
『処理させるために持って帰ってくるんでしょ? 文句言わないでよ』
「仕方がない。適当にごまかして……おや?」
仏像を見ながら狐と話をしていた女の人が、今やっと俺の存在に気づいたように視線をこっちに向けた。
「お客さんとは珍しい」
俺と同じくらいの身長。動くたび、しっぽのように揺れる腰まで届く長い髪。目尻に小じわがある少し吊り上がった大きな目は、神山にそっくりだ。
「あ、あの……」
じっと見つめられてドギマギしていると
「ずいぶん若い子ね。可哀想に」
なぜか哀れまれた。
言われた意味がわからず、無言のまま首をかしげていると
「それにしても、よくこの家に逃げこめたわね。この近くで亡くなったの? それとも、そこの道から逃れて来たの?」
さらに訳の分からないことを聞かれた。今、俺に『亡くなった』て聞いたよね?
『聖子、聖子』
「何、ごんちゃん」
狐に聖子と呼ばれた女の人は、俺をじっと見つめたまま返事をする。
『その子、生きてるわよ』
「えっ?」
狐を見て、再び俺に視線を戻す。そして、そーっと手を伸ばすと俺の腕に軽く触れた。
「ええっ! 誰、この子? なんで家にいるの? どうやって入ったの?」
大きな声を上げ、大きく後退った。こっちこそ、ここまで驚かれたことに動揺する。
『悟が連れて来たのよ』
「えっ? えっ? うそ! あの子が?」
「あ、あの……すみません……」
動揺している女の人とは逆に、少し落ち着いた俺は1つ深呼吸をすると
「はじめまして。神山の同級生の山口です。おじゃましてます」
と言って、頭を下げた。
「悟の同級生? お友達?」
『こんな奴、悟の友達じゃないよ』
それまで黙って見ていた少年がぼそりと呟く。
「優輝」
神山にそっくりな鋭い目で少年をひと睨みすると、少年はびくりと肩を震わせそっぽを向いた。女の人は視線を再び俺に戻すと、じっと俺を見て呟いた。
「あなたが、お孫さんなのね……」
また訳の分からないことを言われた。何のことか尋ねようと口を開きかけるが
「なんでいるの?」
神山の声に遮られた。
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