「ともー! 助けてくれー!」

 昼休み。担任の武内先生に呼び出されていたあっくんは、教室に駆け込んでくると、座っている俺に勢いよく抱き付いてきた。

「あっくん、どうしたの?」

 クラス中が静まり返り、俺達に視線が集中する。

「先生に、部活禁止って言われた!」

「なんで? あっくん何したの?」

「学業優先!」

 あっくんの叫びが教室に響くと、クラスの雰囲気が一気に弛緩した。

「この前山口が教えてくれた野球漫画、古いけど面白いよな」

 前の席の田川が、あっくんの声が聞こえなかったかのように、話の続きを始める。クラスメートも、自分たちの会話を再開する。大袈裟に助けてと叫んだ内容の馬鹿馬鹿しさに、みんなは無視を決め込んだ。

「とも、助けてくれ」

「どうやって?」

「勉強教えて」

 ちらりと田川を見る。田川は不自然なほど、スマホを凝視している。

「俺が?」

「じゃあ田川」

「ちょっと用事が……」

 田川が逃げた!

 あっくんは俺まで逃がす気がないようで、俺から手を離さない。

「試験前の部活禁止期間って1週間なのにさ、俺だけ2週間にされたんだぜ。酷くねえ?」

「そうだね……」

 あっくんは、恵まれた体格に加え運動神経抜群。1年生ながらレギュラーに抜擢されたことで、さらに練習に熱が入った。そのせいか、高校初めての試験で赤点続出の補習の嵐。バレー部顧問にして担任の、武内先生の鬼のような形相が今でも目に焼き付いている。

「試験前の部活禁止期間って1週間なのにさ、俺だけ2週間にされたんだぜ。酷くね?」

 田川が座っていた席に座りながら、話を続ける。

「部活禁止されたからって、俺が勉強する訳ないだろ」

「勉強しろよ!」

 思わず大声でツッコンでしまった。

「部活禁止しても俺が勉強しないの、先生にバレててさ」

 さすが、武内先生……

「みんなが部活してる間、バレー部の部室で勉強してろって言うんだよ。時々覗きに来るからって」

 武内先生の担当教科は現国だ。あっくん全体的に成績悪いけど、現国より数学の方がヤバかったような。

「と言う訳で、一緒に勉強しよう。バレー部の部室で!」

「まあ、部活がない日は付き合えるけど」

 受験勉強も一緒にしたし、それは構わないけど……

「俺もあんま成績良くないの、知ってるだろ?」

「知ってる。けど俺よりマシ。特に最近、数学がちんぷんかんぷんだから、教えてくれ」

「いや、数学は俺も苦手……」

 ガラッ

「数学なら、まっかせなさーい!」

「「!!」」

 変な台詞と一緒に、勢いよくドアが開いた。みんなの視線がドアに集まる。

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