「とも、今日はもう帰るのか?」

 朝の出来事から、あっくんは色々と俺を気遣ってくれる。同じクラスなのもあってほぼ一緒に行動しているからか、異常はないか度々聞いてくれる。廊下で明らかに生きていない人影を2度ほど見たけど、そのくらいは異常じゃないからあっくんには言っていない。

「ううん。今日は写真部の撮影会があるから、そこに行く予定」

「1人で大丈夫か? 一緒に行ってやろうか?」

 あっくんは時々過保護なくらい心配性になる。4人兄弟妹の1番上だからか、俺に対しても、お兄ちゃん気質を発揮する。

「何言ってんの。あっくんも部活あるんだろ?」

「月山!」

 名前も覚えてないクラスメイトが、あっくんを呼びながら走ってきた。背は俺と同じくらいだけど、がっちりしていてちょっと怖い感じだ。

「俺と一緒に甲子園を目指そうぜ!」

 あっくんの肩に腕を回し、親指を立てて言う。

「俺、バレー部に入った」

「マジかー! 月山、運動神経良さそうだから、狙ってたのにー!」

 あっくんの素っ気ない返事に、彼は大袈裟に頭を抱えた。案外、面白い奴なのかもしれない。

「悪いな。俺はバレー一筋だ」

 断言してるけど、それは嘘だ。あっくんは何でも出来るから何でもやってきて、中2でやっと、バレーに落ち着いた。

「じゃあ君は……」

「山口だよ」

「俺は田川だ。よろしく」

「あ、うん。よろしく」

 人懐っこい笑顔で手を出され、思わずその手を握り返す。

「山口、野球やんない?」

「へ?」

「部員足りねえんだ。3年が引退したら、試合出来ねえ」

 握った手を、両手で掴んで迫ってくる。

「初心者歓迎! 今すぐは無理でも、3年が引退したらレギュラーになれるぜ!」

 なれなくていい。運動音痴の俺に、チームプレーは難易度が高い。

「えっと……」

 ハッキリ断らなきゃと思いながら、上手く言えない。このままじゃ、野球部に入部させられてしまう。

「ともに球技は無理だ。それに、文化系の部活で入る部は決まっている」

「マジかー!」

 田川は手を放すと、再び大袈裟に頭を抱えた。

「いや、まだだ! きっとまだ、埋もれた才能がいるはずだ!」

 あっと言う間に立ち直った田川は「邪魔して悪かったな」と言い残し、まだ残っているクラスメイトに突進して行った。

「ちゃんと断らないとダメだろ」

「ごめん、あっくん」

「まあいいけど。気を付けろよ」

 ぽんと俺の頭を軽く叩く。こういう時、あっくんは俺のことも弟と思ってるんじゃないかと思う。そもそも、昔から面倒かけて頼りにしてしまう俺が悪いんだけど。

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