あっちには黒い影。こっちには宙に浮いた人。向こうは陽炎のように歪んで見える。そんなこと、誰に言っても信じてくれなかった。

 友達には「変なの」「嘘つき」と言われた。みんなには見えないのに、俺だけが見えるモノ。それが何なのか分からないから、上手く説明も出来なかった。

 俺は、だんだんと友達と遊ばなくなった。そんな頃に出会ったのがあっくん。

「大丈夫! 俺がやっつけてやる」

 1人で遊んでいて、誤ってボールを遠くに転がした。転がったボールの先に黒い影を見付けて固まっている俺に、あっくんがかけてくれた言葉だった。

「へんっ、しんっ!」

 あっくんは、俺のために戦って、ボールを取り返してくれた。俺の目には、あっくんが本物のスーパーヒーローに見えた。

 あっくんが戦ってくれたからあの影は消えたんだと思っていたけど、あれは決まった時間にそこに現れる無害なモノだと、ばあちゃんは言った。

 なんでばあちゃんにそんなことが分かるのか、疑問に思ったことなんかなかった。昔から、両親ですら信じてくれないようなこともばあちゃんだけは信じてくれて、答えをくれていたから、それが当たり前だと思っていた。結局、ばあちゃんが何者なのか聞けないまま、ばあちゃんは3年前に亡くなった。

 あの時の影だけじゃなく、また俺が変なモノを見た時、あっくんは戦おうとしてくれた。だからてっきりあっくんにも見えているんだと思ってその話をしたら「俺、あんま目が良くないんだ」て返事が返ってきた。

 あっくんは、他の人が見える色が見えないらしい。色覚異常という言葉を知ったのは、ずっと後のこと。

 あっくんは、他の人が見える色が分からない。だからなのか、あっくんは俺にしか見えないモノがそこにあると言っても、疑わなかった。みんなのように嘘だと言わなかった。

「ともは、すごく目が良いんだな」

 その言葉が、すごく嬉しかった。



 あれから、10年の時が過ぎた。

 お守りのおかげか、小さい頃ほど変なモノを見なくなった。それでも、時々は見えてしまう。

 昔のことがあったから、俺は変なモノを見ても言わなくなった。俺が変なモノを見ることを知っているのは、家族以外ではあっくんだけ。

 高校でも知られることなく、目立たなく、大人しく、普通に過ごせればそれで良いと思った矢先の出来事だった。

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