第2話

 カミラは本が好きだった。一人の世界に入っていると、自分の背のことも忘れてしまえるからだ。

「あら、借りていた本はもう読み終わってしまいましたわ」

 カミラは机の上に並んでいた3冊の本を持って、図書館へ行くことにした。


「お母様、図書館まで行ってまいります」

「わかりました、気をつけて行ってくるのですよ」

 カミラは馬車ではなく徒歩で行くことにした。

「コリー様のように背を伸ばして歩きましょうか」

 カミラは本を片手に、カツカツと歩いて行った。


「大女が歩いてるぞ!」

「ほんとだ!」

 町の子どもがカミラを見て囃し立てた。

「人の見た目に何か言うなんて、いけないことですわよ」

 カミラは初めて背筋を伸ばしたまま、言い返した。


「……ごめんなさい」

 子ども達は謝った。

「いいでしょう。もうしないでくださいませ」

 カミラは思った。

「なんということでしょう? こんなに簡単に解決できることでしたの?」


 カミラはコリー王子とつないだ両手をじっと見つめた。

「コリー様、お元気かしら」

 しばらく歩くと、図書館に着いた。


「あら? 今日は兵隊が多いですわね」

 カミラは門の前に立った兵に会釈をすると、図書館に入っていった。

「まずは本を返して。今日はどの本を借りましょうか?」

 カミラが歩いていると、少し背の低い青年が、書架の上の方の本を取ろうとして背伸びをしていた。


「失礼致します、こちらの本でしょうか?」

 カミラは青年が取ろうとしていた本を取り、渡そうとして手を止めた。

「コリー王子!?」

「これはカミラ様、お久しぶりです」


 コリーはカミラの手から本を受け取ると、にっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます。背が高いと便利ですね」

「高い所にある物を取ることくらいしか役に立ちませんよ」

 カミラは遠慮がちに微笑んだ。顔が赤くなる。


「カミラ様も本がお好きなんですか?」

「ええ。コリー王子も?」

「王子と呼ぶのはやめてください。コリーで結構です」

「では、コリー様。どんな本がお好きですか?」


 カミラはコリーと大好きな本の話が出来るので嬉しかった。

「兵法や伝記などが好きですね。神話もロマンティックで好きですが」

 コリーの言葉に、カミラは嬉々として答えた。

「まあ、私も神話は好きです。伝記も色々な方の生き方が興味深くて面白いです」


「今日はまだ用事がありますので、お先に失礼致します」

「まあ、お時間を頂いてしまって申し訳ありません、コリー様」

「いいえ、楽しかったですよ、カミラ様」


 コリーは伝記の本と神話の本を抱えて図書館を出て行った。

「また本のお話や貴方のお話を聞かせてください」

「はい、また」


 カミラはコリーの後ろ姿をうっとりと眺めていた。

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