第4話 無限の魔法使い:美濃モミジ

『魔石』それは、人々の生活になくてはならないもの。

 そのままでも、自動車や列車の動力として使われ、加工すれば携帯のバッテリーやドライヤーのモーターにも使われる。

 小さいものから、大きいものまで需要があり、人々は常に『魔石』を求めている。

 今この世界の動力は魔石によって生活が成り立っているといっても過言ではない。


 そんな日常で使われている『魔石』は多種多様だが、その全てはダンジョンのモンスターから排出される。


 浅い順によって等級があり、5等級、4等級、3等級、2等級、1等級、特級域の6等級に分類され数が少なくなるほど等級が上がる。

 更に深層に行けば行くほど、モンスターは強くなり、『魔石』のグレードも上がっていく傾向がある。

 中には、武器を加工するレア素材や伝説の武具を手に入れることだってある。

 このため、冒険者はできるだけ深層に潜ろうとする傾向がある。

 それらはオークションで出品され、毎日何億円の高値で取引されることも珍しくない。

 有名な話、ある学生が低層階でドロップしたレア素材をオークションに出品したところ、5億の値がついたという話がある。 

 そのため小学生の将来なりたいものランキングで、常に男女共3位以内にランクインしているほど夢のある仕事なのである。

 そんな夢の職業につけた僕だけれど、足取りは重かった。

 この選択もあの悪魔の思惑なのだろうか。

 いや、この状況こそがあのデルィストの思惑なのかも知れない。


 話は変わるが、ギルド:パルテノンには寮がある。

 寮といっても、何度もダンジョンアタックができうるように、ダンジョンの横に無理矢理建てた倉庫みないたいなもので、僕は今日からそこに寝泊まりするように命じられた。ちなみに養護施設は今日付で追い出されていた。

 

 寮まで何とかつくと寮の前には、武装した集団が集まっていた。

 これからダンジョンに向かうのだろうか、少し高いところからリーダーらしき人が何やら注意事項を言っている。

 僕は邪魔にならないように横を通り抜けようとすると、集団の中から大きな声が聞こえてきた。


「おにぃ!!」

「え?」

 その声に 僕だけじゃなく集団全員から目線が向けられる。

 振り返るとそこには見知った顔立ちの少女がいた。

 美少女と言っていいほどの顔立ち。よくて手入れされた漆黒の髪。そしてまだ18歳といえないまでも抜群の体型をしている。僕のよく知っている妹のモミジちゃんが寮の前に立っていた。

 

「代表ちょっとすいません」

「えっいや……」

 妹が集団の中から外に出ると、僕の方に小走りでかけてきた。

 ってはや。


「久しぶり! 元気にしとった?」

「う、うん」

 妹の大きな声に僕まで集団から注目されてしまった。

 妹は笑顔で話しかけ始める。


「最近、全然連絡せんからどうなっていたんか心配だったんよ。今日はどうしたん? ここから先は関係者しか入っちゃダメなんよ」

「え、ええっとね」

 妹は何やら余程嬉しいのかさっきから大きな声で話しかけてくる。

 何とかして言い返そうとした時……。


「あれ『不合格』のワカバじゃね!?」

集団からそんな声が聞こえた。


「『不合格』って何だ? 二つ名的なやつか?」

「知らないのか? 小学生でも受かる試験を必ず不合格になることから、そのすじの試験管から呼ばれた渾名が『不合格』のワカバ。一部では有名な話だよ」

 その通り。まだあの契約が信じられなくて、高い受験料を払って資格を受けまくった『不合格』者それが僕だ。

 本当のことなので聞き流せばいい……。

 そう思っていたのだが……。


 ちゅん!!!

 そんな音と共にあたり一面が急に光ったと思ったら、先ほど僕の話をしていた3人の冒険者の横を三股の光が放たれた。


「あ、ああああああああああああああ!!」

「え、ってえええええ!!」

「耳が、俺の耳がぁああああああ!!」

 よく見るとそれぞれ、頬、耳、左手の指を抑えて、その場にうずくまっている。


「……ちょっと待ってね、おにぃ。今、おにぃを馬鹿にしたやつを処分してくるから」

「待て待て待て!」

 僕は集団に戻ろうとした妹を必死に止めようとすると、何を考えているのか更に追い討ちをかけようとしていた。

 我が妹ながら物騒すぎる。


「やめてください。『無限』さん」

 僕が妹の腰にしがみつき、その場に止まってるのに対し、集団の中から美しい女性があわらわれた。

 銀髪を後ろにたばね、漆黒のライトアーマーを着こなしているその人は、そこら辺のアイドルよりも美人だとおもう。

 でもそれよりも驚いたのが、その人物が部長より言われた重要人物だということだ。


「何です代表。邪魔しないでください」

「なんでじゃありません! これから一緒にダンジョンに入るP Tメンバー何してるんですか!」

 アートリナ・エフセエフ。特級冒険者。実力は国内5本の指に入るであろう人物。

 そして彼女とP Tを組んだ冒険者は死亡する。

 そんな最重要人物。


「そんなの関係ない。うちの兄を貶したそいつらが悪い」

 ダンジョンは最低5人以上のメンバーで挑まなくてはいけない決まりがあり、妹がそのうちの3人をやってしまったわけだ。

 とりわけ僕は妹の注意が外れているあいだに、3人の冒険者のところに向かい、寮に備え付けられているポーションをかける。

 すると欠損された部位が逆再生のように再生された。

 んー何度見ても気持ちが悪い。


「彼らも言い過ぎなところもありましたが、それでも今は一緒に冒険に行く仲間ですよ! それを……」

「いいじゃないですか。成功してもまた誰か死ぬでしょう」

 ってはこっちはこっちでもうヒートアップしている。

 その隙にさっき暴言をはいていた冒険者は、ここぞとばかりに逃げ出した。

 まぁそうなるわな。


「もう結構有名な噂になってますよ。代表とP T組むとその内の誰かが死ぬって」

「ッ『無限』さん」

「『星騎士』様には刺激が強すぎましたかね。すいませんね、なにぶん育ちが悪いもので」

 モミジちゃんは杖を構えて、アートリナさんも腰の剣に手をかけている。

 一触即発そんな空気が場に流れる。

 やめろー、こっちはもういろんな事が多すぎてお腹いっぱいだ。


「はい。おねぇちゃんたち! すとっぷ!!」

 僕もここから逃げ出そうと考えていると、ぶっそうな空気の中で幼い声が割って入ってくる。

 その声の主はパンと手を叩くとモミジちゃんとアートリナさんは動きを止めた。


「ぼくがいるのに、けんか、なんてだめだよ」

 声の主はログハウスのドアの向こうから聞こえてくる。

 そして中から小さな男の子が出てきた。


「『天帝』どうしてこんなところに!」

 モミシちゃんが明らかに狼狽しながら言う。


「んーきょうはようじがあってねー」

「なんて、タイミングの悪い」

 明らかに二人は狼狽しているようだ。

「で? これはどういうこと?」

 っと『天帝』と呼ばれた少年が二人に促す


「こ、これは『無限』さんが……」

「ふーん、そっかー」

「違う違う。だからだから、なんていうかこれらも、別に喧嘩とかではなくじゃなから」

「ふーん」

「……あのー『天帝』さま」

「なーに?」

「お許しください」

「んーーー。だーめ」

 じゃーおしおきだ。

 少年がもう一度手を叩く。

 すると、二人はその場に力なくくづれ落ちた。

 なにが起きたのかもわからずに呆然としていると、『天帝』とやばれた少年はにこやかな笑顔を浮かべながら、僕を呼び掛けた。

「おーい。おにいさん」

「は、はい」

 条件反射で返事をしてしまった。


「だいじょうぶ。かげんはしたから。みんなを、はこぶのてつだって」

「り、了解です!」

 つい敬語になってしまったが、ぼくは『天帝』と呼ばれた少年とともログハウスに妹たちを運ぶのだった。

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