命の等価交換にレア資格と人生ではわりに合わなくないですか!?

玄翁

第1話 対価の悪魔:デルフィスト・アスモデウス

どうしたものか。

『対価の悪魔』と呼ばれるデルフィストは途方にくれていた。

 気まぐれで人間が作ったと言われる人工モンスター製造施設、通称『ダンジョン』に訪れてみたはいいものの、どうもみちに迷ってしまったようだ。

 ほんの軽い気持ちで入ったのだが、このダンジョンというものはどうしてこう入り組んでいるのだろうか。


「ええい!! また行き止まりではないか! どういうことだ!!」

 苛立ちながら、来た道を戻る。

 そしてさっきとは逆の道を進む。

 しかし、その足取りは恐ろしく重い。

 別に疲労で足が疲れているわけではない。

 いい加減代わり映えのしない、洞窟が嫌になってきたのだ。


 人間からは最悪の悪魔である『二つ名』持ちの悪魔であり、畏怖と憎悪の対象であるこの私がなぜこんな目に合わなければならんのだ!

 本人は知るよしもないのだが、ダンジョンはモンスターが外に逃げ出さないようにするために、認識阻害の結界が貼られている。

 もし上層に来ていたとしても外に出るのは困難なのである。


「どうしてダンジョンというのはこうなのだ! ここに住んでいる奴らの気がしれん!」

 だいたいどうしてこうジメジメと薄暗い洞窟なのだ。

 歩きずらいし、明かりは少ないし、こんなところに長時間いたら体にカビが生えてしまう。

 それに誰にも会わないから、道を聞くこともできやしない。

 永遠と続くような長い道。幾多にも枝分かれする分岐路。

 中に入ったものの感覚を狂わせるようにできているのか、少しづつ湾曲してできているそれは、歩いているだけで自分の位置がわからなくなる仕掛けが施されている。


「これを作った奴は相当、考えのねじ曲がったやつに違いない」

 文句を言いつつ足を動かしていると、前方から人間の声が聞こえる。

 これでようやく、ここから抜け出すことができそうだと考え足を早めた。

 が、目の前の光景が目に入った瞬間、思わず足を止めてしまった。


 そこに広がっていたのは極上の魂だった。

 見た所、人間の子供。

 どちらも変わったところはないように見えるが、その魂はどちらも極上だ。


 片方は、金色の髪をした気の強そうな男児。

 まるで太陽のようなその魂は、何者も寄せ付けないような力強さを持っていて全てを燃やし尽くしてしまいそうだ。

 あまりの光に身を燃やすその姿は、周りのものに近づくもの全てに死を撒き散らす存在になりかねない。


 もう一人は、茶色髪に今も泣きそうな顔をしている魔法使いの女児。

 その魂はまるで混沌。

 一見、黒一色に見えて何千もの魂が混ざり合っており、さまざまな魂が融合しあい絶妙なバランスで保っている。

 異常の元に成り立っているその姿は、まるで愉快な喜劇を見ているようだった。


 二人は大量のモンスターに襲われていた。

 数にして数百十匹だろうか。

 大量のガーゴイルが周りを埋め浮くしている。

 これでも善戦したのだろう。地面には、100匹近いのモンスターが倒れている。

 しかし、金髪の男児は肩から血を流しており、すでに剣を振るう力も残っていないようだ。

 茶色髪の女児も魔力がもう底をつきしかけているのか、杖にしがみついて立っているのがやっとといった感じだ。

 モンスターは相手が弱るのを待っているのか、お互いを威嚇しながら他のモンスターが抜け駆けしないように牽制していた。

 

 面白いものを見つけた。

 この童達から魂を奪うのは簡単だ。少し均衡を崩壊させるだけで、この子供達はモンスターにやられてしまう。

 その後に魂をいただけばいい。

 しかしそれでは、ほんの一部の魂しか奪うことができない。

 溢れ出る蛇口に口を押し付けても、すべてい飲むことができないのと同じで、この魂は底が見えない。

 少しづつ少しづつ、いただく必要がある。

 しかし見逃すという選択肢はない。

 これほどの魂これから後何百年と出会うことはあるまい。

 それにそれは『対価の悪魔』である私の矜持が許さない。

 丁度退屈していたことだ。

 少し古臭いが、何か適当に対価を押し付けて契約を行うとしよう。


「大丈夫かね?」

「「……っ!」」

 童達が驚いたようにこちらに振り返る。

 モンスターの隙間から私の方を凝視した。

 よく見れば、二人とも意識を保つことがやっとのようだ。


「……っ! アークデーモンだと!」

 それでも剣士の男児は注意深く私を観察し、人間でないことを見抜いたようだ。

 うむその観察眼。将来はさぞ有名な剣士になるであろう。


「助かりたいかね?」

 私がそういうと童達に戸惑いの感情が顔にでる。

 それもそうだろうモンスターが人間を助けようとしているのだから。

 しかしそれでも私は言葉を続ける。


「私の名前はデルフィスト。条件次第では君たちを助けてあげよう」

 私は下級モンスターがちょっかいを出さないように威嚇しながら童達に詰め寄る。

 童達の体が少し引いた気がした。


「童達よ。どうする?」

 それでも『対価の悪魔』は子供達に優しい口調で語りかけた。

 男児の剣士と魔法使いの女児はお互い警戒し顔を見合わせた。


「……本当に助けてくれるのか?」

「おにぃ!」

 そして金髪の男児がデルフィストの問いかける。

 茶色髪の女児がそれを制しするが、彼は止まらない。


「一つ条件がある」

「うむ、何かね?」

 彼は言うのもやっとと言う感じで、質問して来た。


「その支払う条件というのは、俺だけでも可能か?」

「おにぃ! やめて!」

 女児が必死に懇願する。

 しかし彼は止まらない。


「俺だけでいいなら、煮るなり焼くなり好きにしろ」

「いいだろう。ここに契約は完了した。それではザコどもコレは私の獲物だ!」

 そういうと私は、近くにいたガーゴイルを踏みつけるとそのまま押しつぶした。

 激昂したガーゴイルは、これが戦闘開始の合図となり一斉に私に飛びかかって来た。

 さてこれから面白くなりそうだ。



 数分後。

 周りにはガーゴイルの死骸が山になっていた。

 全てデルフィストがやったことだ。

 彼にかかれば、下級モンスター程度一瞬で倒すことは容易であった。

 デルフィストは軽く手を叩くと、童達の元に歩き覗き込むように言う。


「さて、早速さっき言っていた条件を言おうかな」

 童達は私がそういうと、青い顔をしながらその場に座り込んでしまった。

 その体は、寒さに凍えるようにガタガタと震えている。

 おかしいな? 何をそんなに怯えているのだろうか?


「君たち等価交換って知ってるかな?」

「……?」

 童達の青い顔に疑問の表情が浮かんだ。

 それを見て『対価の悪魔』の顔が少し弧を描いたのを子供達は知るよしもなかった。

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