(掌編)色がない

こうえつ

(掌編)色がない

目が覚めたら、いつもの景色、僕が生まれて育った町。


 ただし、色がなかった、人々も街並みにも。一切の色が消えて、灰色の世界が僕の前に広がっていた。


 焦り、原因を聞きまくったが、町を歩く人たちは、まるで見えないように僕の前を通り過ぎていく。


しばらく頑張ったが、なんの情報も反応すら得られなかった。


疲れ切った僕は公園のベンチに座って、なぜこんな事になってしまったのか考えた。

座ったベンチも公園も噴水も色がない、そうだ家に帰ってみよう。


・・・


やっと自分の家に到着した。


「母さん」母親を呼ぶが返事はない。この時間は家にいるはずなのに。

ふと、居間のテーブルを見ると、何かが書かれた紙が置いてあった。

内容は母親が書いたものらしく、父親宛てだった。


”お父さん大変なの。あの子が。とにかく早く**に来て頂戴”


 何度、読み返しても**は読めない。

「どこへ行ったんだよ母さん**ってなんだよ」


・・・


街をあてなくもなく歩く僕、色がない町は夜になっても、灰色のまま。


 途方に暮れた僕は、いつのまにか、先ほど座った公園のベンチに座って、頭をかかえていた。


なにげなく顔を上げた時、僕の目に色が飛び込んできた。


それは道の向こうを走る小学生の女の子が背負うランドセル。


赤色。


唯一の色を見つけた僕は、走り出した、女の子をおいかける。


・・・


赤いランドセルを背負う女の子に、やっと追いついた。


「ちょっと待ってくれ、その赤いランドセルはなぜ色があるんだ」


 僕の声に立ち止まった女の子は前を向いたまま、顔を見せずに答えた。


「わたしのランドセルは赤くない。でも赤くなってしまったの」

 女の子の言葉の意味を考えたがわからない、その時、女の子が突然走り出した。

 懸命に追いかけ、赤いランドセルに触れた瞬間、僕は意識を無くした。


・・・


 気が付くと白い天井と、心配する両親の顔が見えた。


「ここは? 赤いランドセルの女の子はどこ?」

 僕の言葉に、母親が答えた。

「赤いランドセル? 頭を打ったのね。あなたは事故にあったの」


 かなり大きな事故で、僕は10日も意識不明だったらしい。


「大型トラックでね、運転手は酒酔い運転の常習者だったみたい。あなたが事故にあって、やっと捕まって……先週の小学生の死亡事故も犯人だと、警察が言っていたわ」


 母親の言葉は僕に良く聞こえていなかった。


「女の子は自分の好きなピンクのランドセルを背負っていたけど、トラックに跳ねられて、側溝に鞄だけ落ちていたみたい、女の子の血がついて、真っ赤だったみたいよ」


母の言葉を聞かなくても分かっていた。


病室の入り口に、悲しそうな顔をした女の子が立っていたから。


赤いランドセルを背負って。



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(掌編)色がない こうえつ @pancoo

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