第69話 火を使うときは大人と一緒に
「先生!
「そうか」
一年が過ぎた。
時が経つのは早いもので、また花の咲く季節である。この森では夏は暑く、冬は寒い。葉の色が刻々と変わっていく。ネジは、この鮮やかな変化が好きだった。そして、人間の子も葉の色のように変わるらしい。
ガリバーは兎の死骸をもって、うれしそうな笑顔をネジに向けていた。
相変わらず小さいが、少しだけ大きくなっただろうか。重いと言っていた剣を軽々と腰の
「ずいぶんうまくなったな」
「うん。もう兎だったら簡単に捕まえられる」
「この前、
「あっちはまだむり。大きいもの。でも、いずれはやっつけてやるからね」
「その意気だ」
ネジの言葉に、ガリバーはふふんと鼻を鳴らした。
「早く食べろ。死骸で遊ぶな」
「はい、先生。でも、生肉はなぁ。お腹痛くなるんだよな」
ガリバーは慣れた手つきで兎の血抜きを
ただ、火が起こせない。人間などは魔法を使わなくても火を起こす
今度、吸血鬼がやってきたときに聞いてみようと、今のところ、火の起こし方は
「ふむ。今日は火を使おう」
「え?」
「ほれ」
「あ、火の石!」
ネジは、腹の中から赤く燃える石を取り出した。大きな岩の掌の上で、どろりと溶けた石。溶岩である。
折れた木々を集めたところに、ネジは溶岩をどろりとかける。すると木々は次第に赤くなり、ぼっと火を立ち
火を起こす方法はわからないが、既にある火を持ってくることはできる。近くの山の溶岩。ネジはたまに溶岩を持って帰って来て、こうして火を起こしてやっていた。
「うわっ、
「気をつけろ」
「先生は熱くないの?」
「俺にはちょうどいい暖かさだ」
「すごーい」
「こら、そんなに木を燃やすな。森を燃やしてしまったら大変だろ」
「はーい」
火をつけるとガリバーは遊び始めるから困ったものだ。ネジでも火の取り扱いには注意する。ゴーレムゆえ怖くはない。ただ、その力の強大さは知っている。この命に
ガリバーは、知らない。だから無邪気に火と
「僕も魔法が使えればな」
「魔法か。確かに人間の身体能力では限界があるからな。冒険者とかいう連中も魔法で能力を向上させている」
「いや、魔法が使えれば火を起こせるかなって」
「火で俺は倒せないぞ」
「うん、先生を焼く気はないよ。お肉を焼くんだよ」
「そうか。まぁ、何にしろ、魔法は使えた方がいいな。心当たりをあたってみよう」
「え? 教えてくれる人がいるの?」
「人間ではないがな。まぁ、教えてくれるかどうかはわからない。そういう生物ではないんだ」
ガリバーは目を輝かせているが、その期待に応えられるような奴ではないことをどうやれば伝えられるだろうか。まぁ、彼女に会わせるのは話を通してからにしよう。そうでなければ、食べられてしまうかもしれない。
「楽しみだな」
「期待はするな」
「うん。でも、魔法っておもしろそう」
「さっさと肉を食え。焦げてしまうぞ」
「え? あ、ほんとだ! 危ない危ない」
ガリバーは、
「あー、やっぱり焼いたお肉はおいしい」
「そんなに違うのか?」
「違うよ。お腹痛くならないし」
「違うのか」
焼いたら炭になってなくなってしまうのではないかとネジなどは思っていたのだが、ガリバーは器用に焼く。小麦色の肉は、油がしたたり落ちて、そこにうまみがあるらしい。
「先生も食べる?」
「俺は食事はとらない」
「そうだった。もったいないな、こんなにおいしいのに」
「美味しいという感覚はわからないな」
「でも、先生も鉱物を食べるでしょ」
「あれは趣味だ。きれいな鉱物を集めるのが好きなんだ」
「え? 食べているんじゃないの?」
「身体の中に入れているだけだ。こうやって取り出せる」
「うわっ、ほんとだ。便利」
ゴーレムは魔力で動く。この辺りは大気中の魔力純度が高いので、それらを摂取するだけで問題ない。
だから、おいしいという感覚はわからないが、ガリバーのうれしそうな顔を見ていれば、それがどういう感情なのかは少しだけわかると、ネジはふとそんな気がした。
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