第28話 誘拐は犯罪です
「ん! んんんん!? んんんんんん!!」
いったい何が起きた?
さっぱりわからない。とりあえず生きてはいる。身体に痛みもない。痛みはないが、頭がくらくらする。何か毒を盛られた? いったい誰が?
致死性のものではない。
私は、魔力を込めて、腕の
「ぷはぁぁぁあ!」
大きく息を吸って、それから、立ち上がり、
波の音?
「おう、起きたか」
「あんた!」
そこにいたのは、予想外の男である。いや、実はそうでもない。他に予想もつかなかったし、うすらぼんやりと寝込みを襲われた記憶がある。
冒険者カラス。
彼は、岩場で火を
「どういうつもり! ここはどこ!?」
「見てわからないのか? 海だよ」
「そういうこと聞いてんじゃないわよ!」
確かに海だ。私は
いや、だから、そうではなく。
「何で海? というか、私を
「別に攫ってない。おもしろい世界に連れて行ってほしいと昼間に言っていただろ。だから連れてきてやったんだ」
「頼んでない! というか、そうならそうと口で言いなさいよ! 何で
「いや、うるさいのは嫌いだし、暴れられると持ち運ぶのが面倒そうだったからな、つい」
「つい、で縛ってんじゃないわよ! この変態!」
「寝ている間にわざわざ運んでやったんだ。お礼を言われることはあっても、文句を言われる
「あるわよ! バカじゃないの!」
常識ってものがなさ過ぎる。
冒険者にそんなものを求めること自体おかしいのかもしれないが、王女を誘拐しようなんて思いつくのは他国のスパイかテロリストくらいだろ。
まったく、と私は腰に手を当てる。
「言っておくけど、海くらい見たことあるからね」
「何だ、意外とアウトドアなんだな。引きこもりかと思っていた」
「こんにゃろう……!」
「だが、おまえに見せたいのは海じゃない。あれだ」
カラスが
「岩山?」
あんまり驚かなかった。なぜなら、そこにあったのはただの岩山だったからだ。少し沖に出たところ。そこに海から突き出るように高くそびえたっている。確かに奇妙な光景であるが、おもしろいかと言われると。
いや、待てよ。以前の視察で見た気がする。確かあれは。
「
「そうだ。いろんな海流のぶつかる特殊な海域のせいで、海の魔物の
「いや、魔晶岩の説明はいいんだけど。というか、魔晶岩の浜って立ち入り禁止じゃなかったっけ?」
「あぁそうだ。別に
「あー、そういえばそんな話していたわね」
てっきり王宮の風呂の話だと思っていた。
「で、何? 魔晶岩から
「知っているさ。この海域は、海流の影響で沖に出たが最後、海のもくずとなる。そのせいで、魔晶岩に
「……、ふーん。わかっているんならいいけど。でも、それだけじゃないのよ。ここいら一帯にはね」
「魔物が多く
「……、強い奴がね、出るのよ」
説明させてよ。
私が、不満を
「そうだ、あんなふうにな」
「え?」
振り返ると浜辺に何かがいる。うねうねとした長い身体に無数の足、そして、頭がぐいと持ち上げられ、赤く光る眼で見下ろしている。
船乗りが最も危険視する魔物だ。水陸両方で活動でき、動きが
その船食百足が二体いる。
「やばぁぁぁぁい!」
剣は?
って、あるわけがない。
「あんた、逃げるわよ!」
「何を言う。このくらい処理してもらわないと困る」
何を
攻防が一瞬で過ぎる。強いのは知っていた。カラスは強い。しかし、まさか、船食百足を一蹴してしまえるほどの強さとは思わなかった。
いや、それより聞き捨てならないことを言っていた気がする。
「今、何て言った?」
「だから、このくらいやってもらないと困る。今から、船食百足クラスの魔物と大量に戦ってもらう」
「誰が?」
「おまえに決まっているだろ。何のために連れてきたと思っているんだ?」
「いや、何のためかまだ聞いていないのだけど」
船食百足の身体がバラバラと
「今から、二人で魔晶岩を攻略するぞ」
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