第26話 ヒントは日常の中に転がっているものです
「もう、あの冒険者の元で
チシャが言うことは当然で、私はその提案に応じるべきだと思った。けれども、私は首を縦に振るのを
母様からひどく
「あの男は確かに強いのかもしれません。今までお嬢様に
チシャの言うことはつくづくもっともだ。剣術は確かに王族の
戦争となったとしても、王族が前線に向かうことはないだろう。もしも私が剣を振るうような状態になったとしたら、そのときには、もう戦争には負けている。
さらにいえば、私は第二王女。おそらく、将来的に政治にも戦争にも関わることはない。ともすれば、剣術の稽古などは単なる趣味。腹を立ててまで取り組むことではない。
「お嬢様も、あんなしがない冒険者に、その清い身体を
「ちょっと待って。汚されてはいないから」
「運命の人が現れるまで、みたいなメルヘンチックな思いのもと、誰にも触れさせないようにしようと清い身体を守ってきたというのに」
「ねぇ、バカにしてるよね。確かに、恋とか愛とかにまだ夢見ていたい年頃ではあるけど、だからってそこまで
「このままでは、あのしょうもない男に何をされるかわかりません。そうしたらお嬢様の清い身体が、あーってなりますよ」
「あー、って何? やっぱりバカにしているよね。その、あー、の部分、どうせおまえわかんないだろみたいな意味だよね。というか、さっきから、ちょくちょく清い身体っていうのむかつくんだけど。自分は経験あるけど、みたいな、おまえはまだだよね、みたいな。別に
「経験済みっていわれるとマウント取ろうとしている感が出ますけど、経験豊富っていわれると少しかっこいい感じがするのは何でですかね」
「知らんわ」
チシャが途中からふざけたので、私はテキトーに返しておいた。一応は心配してくれているようだが。
「魔力を瞬時に出せって言うのよ」
「はい?」
「普段は
「あー、そういうことですか。いえ、お言葉ですが、お嬢様。私はできます」
「え? チシャできるの?」
私でもできないというのに、メイドのチシャにできる? そんなことありえる? と私がチシャをじとっとみつめると彼女は首を横に振った。
「おそらく私だけではありません。お嬢様以外の者のほとんどはできるのではないでしょうか」
「嘘! そんな簡単なことなの?」
「簡単というより、自然と身につきます。というのも、私達はお嬢様のように魔力が多くないのです」
「?」
「たとえばですが、時計塔の掃除をするとき、私は強化魔法を使って、塔の上まで跳びます。しかし、強化魔法を使うのは跳ぶ一瞬だけです。それ以外のときも使っていては、疲れてしまい、仕事終わりに遊びに行けません」
「あなた、仕事はできるのに遊ぶことばっかり考えているわよね。それで、今日みたいな夜勤の日はどうやってモチベーションを維持しているの?」
「夜勤手当ですね。給料袋の重さを想像してがんばります」
「ねぇ、何か不満があったら早めに言ってね。私、チシャのことは大事に思っているから、ある程度なら話聞くわよ?」
「大丈夫です。満足しております。で、話を戻しますが、つまり、魔力を節約するというのは、私達には日常なのです。けれども、お嬢様は、私達とは比べものにならないくらいに魔力が多い。ですので、お嬢様には不要な技術だったのです」
「なるほど」
「ただ、武術の心得のない私にでもできるのです。決して難しい技術ではありません。きっとお嬢様なら、すぐに
「ふーん」
そういうことかと、チシャの説明を聞いて私の中で整理がついた。一方でチシャは
「それと、あの男の稽古を受けることと関係があるのでしょうか?」
「うーん。ないかな。
「はぁ。また、お嬢様はそんな
「いいの。遊びよ、遊び。でも、チシャの言う通り、私にもできそうな気がしてきたから、この遊びも、もう終わりかもね」
そう言って、私はあくびを一つして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます