第18話 魔女の言葉を真に受けてはいけません(僕は不在です)
深夜、カラスは再び温泉に入っていた。
サイラスとエミリーは寝室で既に寝ている。寝室といっても簡易的なもので、
彼らも疲れているだろうから、ぐっすりだろう。誰かと共に温泉の良さを分かち合うのもいいが、こうやって静かに湯を楽しむのもまたいい。
魔鉱石が、魔力に当てられて
「相変わらず
「その身体で遊ぶなよ。ガキが怒るぞ。
そこに立っていたのは、ローブを着た少女であった。彼女は、ゴーレムではなく人間。それも知った顔で、つまるところ、サイラスの連れ、エミリーである。
ただ、そこにいるのはエミリーではない。身体はエミリー、しかし中身は別。
破滅の魔女。
気配で察したカラスが
「朔の日がもっともゴーレムの力が弱まる。だからって、毎度毎度では飽きるじゃろ。たまには満月の日を選んで来たらどうじゃ?」
「黙れよ。自分で来るのは面倒だからって、いつも俺に弟子を運ばせてる
「よいではないか。ついでじゃし。それに今回はおもしろかったじゃろ。なんせ、勇者の卵をつけたからな」
「さんざんだよ。次からは別料金もらうからな」
破滅の魔女はさらりとローブを脱いで裸になり、特にどこを隠す様子もなく、仁王立ちで風呂の縁に立った。
「嫁入り前の身体でやめてやれよ」
「よいよい。弟子の身体はわしのものじゃ。なんなら使ってもよいぞ」
「下品な奴め。だから嫌いなんだ」
「ぬひひひ。
「二世紀生きている奴から見れば、たいがい小僧だろうよ」
「年寄りのように言うでない。わしは魔女の中では若い方じゃ」
魔女界の平均年齢高すぎるな。
よっこらしょ、と破滅の魔女は温泉に浸かる。人の身体を使っても、温泉は気持ちいのだろうかとカラスは首を傾げたが、十分に
「それで、うちの弟子と卵はどうじゃった?」
「弟子の方はおまえに似て性悪、卵の方はやっとひよこってとこかな」
「ぬひひひ。おぬしにしてはよい評価ではないか」
「どうするんだ、あのガキ? 本当に勇者に仕立て上げるつもりか?」
「仕立て上げるとは人聞きがわるい。わしはただお
「何が違うんだ?」
ぐっと空に手を伸ばしてから、破滅の魔女は、足でぱしゃぱしゃと水面を蹴っていた。
「久しぶりにいい素材をみつけたのじゃ。いいかんじに育ってディラン坊やみたいにならんかのぉ。そしたら、また、世界が大混乱しておもしろくなるのに」
破滅の魔女。英雄ディランを仕立て上げた張本人。彼女のせいで、人間と魔物を合わせて、いったいどれだけの数が死んだのか。
魔王よりも、まずこの魔女を討伐した方が世のためになるのではないだろうか。いや、間違いなくなるだろう。
「まったく、
「何を言うか。いったい誰がこの秘湯を教えてやったか忘れたのか?」
「それは感謝している。出会えてよかった」
「おぬし、温泉のこととなると本当に素直じゃな」
「というわけで、ものは相談なのじゃが、このまま弟子と卵の指南役をしてくれんかの。おぬし、ぶっきらぼうじゃが、意外と面倒見がいいから、うってつけなんじゃが」
「断る」
「じゃよねー。わかってた」
「俺は忙しい」
「どうせ温泉巡りをするだけのくせに。この
「それが俺のライフワークだからな」
「かっこよく言ってんじゃないわい」
破滅の魔女は、ざばっと勢いよく立ち上がり、ひょいと温泉から出る。
「あーあ。せっかく、おぬしもこの遊びに参加させてやろうと思うておったのに。最高におもしろいことになっても、特等席を用意してはやらんぞ」
「いらん。俺の特等席は常に温泉の中にある」
「なんじゃ、その名言っぽいやつ。むかつくな」
というか、と破滅の魔女は、ロックメイドに身体を拭かせつつ、カラスの方をちらりと見て呟いた。
「おぬし、長風呂過ぎじゃろ。ふやけるぞい」
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