第37話 怪しい人物
次の日、前回の続きの20階から攻略を再開する。
昨日と同じように今回も私がほぼ単独でダンジョン内を進んでいく。
罠の傾向も掴めてきた為、大分罠にひっかかる率も下がってきた。
魔物の方もまだ手こずるような強さを持った奴は現れなったので比較的順調に30階まで到達するとフロアボス戦に突入できた。
繋がった空間は石造りのダンジョンから一変し野外になっており、フロアボスは単体ではなく大群の蜘蛛達だった。
蜘蛛の群体の奥に巨大な個体か見受けられたのであれが統率するボスだと思われた。
「うげっ、気持ち悪すぎでしょう。さすがにこれは焼き払う方がいいと思うけど?」
マリカ姉様が渋い顔をして提案してくれる。
しかし、巨大な蜘蛛ごときに遅れを取るわけにはいかないのでやんわりと提案を断ると代わりに【
囲まれると雑魚といえど油断できないので、掛けてもらった業火の祝福の効果を【烈風衝波斬】に乗せ全面にニ度放つ。
炎を纏った突風が蜘蛛共を焼き焦がし、切り刻んでいくと群体を三つに別け足を止めることに成功する。
足が止まったところをすかさず魔力を剣に込め切り裂く竜巻を放つ回転突き【裂空旋風衝】を三つに別れた集団へと向けて撃ち込んだ。
竜巻も業火の祝福の効果を受け炎の竜巻となって蜘蛛共を巻込み殲滅していく。
炎と風に蹂躪される蜘蛛達を尻目に私は統率者とおもしき巨体な蜘蛛の元に歩み寄る。
近づく私を警戒するように牙を交差させ威嚇する。
無視して私がさらに近づくと巨体に似合わない跳躍を見せ粘着性の糸を放ってくる。
素早く身を翻し糸を交わすと巨大蜘蛛の着地点に向かって剣を地面に突き立て【暴破砕風陣】を敷く。
巨大蜘蛛は着地の瞬間に足場が抉られる程の暴風に巻き込まれるとバランスを崩しながら宙へと舞い上がった。
空中に舞上がり無防備なの巨大蜘蛛に向かって私は炎を纏わせた【烈風衝波斬】と【裂空旋風衝】を立て続けに放つと丸焦げになった巨大蜘蛛が風の斬撃で切り刻まれパラパラと炭になって落ちてきた。
エリアボスを倒したことで空間が元に戻ると石造りの壁が目の前に広がった。
「お見事でしたクラリス様。
「まだまだ中伝の身です。早く師から皆伝を賜りたいところですが」
「ふっふ、焦る必要はありませんよグラス老師の元修行にはげめばクラリス様ならきっと極伝へと至れますよ」
同じ剣を扱う者として『ナイトセイバー』の私とはクラス特性も剣の質も違うアリア姉様だが遥か先へと至った方からそう言われると少しだけ自信がついた。
アリア姉様はそのまま一息付くための簡易キャンプを設置し始める。
合わせてマリカ姉様は魔物避けの結界を張り、クロエ姉様は目を閉じると周囲の気配を探り危険が無いことを確認する。
その中でエイミィは何をするでもなく飛び跳ねて私に話しかけてくる。
「クラリス、見てるのもう飽きた。あたしも動きたい!」
「構わないけど、この中層階でもエイミィには物足りないんじゃない?」
「うん、心配ない、負荷をもっと強くするから」
エイミィはそう言うと首に巻き付けたチョーカーに付いている小さな銀の鈴に魔力を込めた。
学園でもエイミィは力を出しすぎないように兄様からもらった銀の鈴で負荷を調整している。
他の姉様達は星十字の証として指輪を賜っているが、エイミィはこの銀の鈴が星十字の証となっており、何よりの宝物だと言っていた。
「分かった。エイミィは私と連携して戦っていきましょう。その姉様達には申し訳ありませんが」
「分かってるわよ、中層階で過剰に戦力を投入しても仕方ないから、当分黙って見守っておくわ」
代表してマリカ姉様が中層階での指針に答えをくれた。
簡易では食事を済ませ、少しだけ休息をとる。
クロエ姉様は終始目を閉じて何かを探っているようだったが私が尋ねても確証のない事なので余計なことは言えないとはぐらかされ、今は目の前のダンジョン攻略に集中するようにと噛むことなく促された。
私はクロエ姉様の助言通り、先に進む事を優先しダンジョン攻略を再開する。
中層階といわれる30階以降は危険な罠も増えてきたが初見以外の罠に関しては対処できるようになり、魔物もエイミィが戦力に加わったため、問題なく進むと40階まで到達することが出来た。
40階のエリアボスはファイアドレイクと呼ばれる火竜の一種で負荷で能力を抑えられているとはいえエイミィと私の連携の前に敵ではなかった。
まだ時間もあったのでさらに先に進むことにして43階に差し掛かったところで、それは現れた。
周囲とは明らかに毛並みの違う魔物でまるで自らの意思がないかのようにひたすら攻撃を続けるだけの狂った個体が。
そんな凶暴化した魔物が種類は違うが何度も現れ倒す度に手強くなっていく気がした。
そして今、45階にも現れ立ちはだかっていた。
見た目はキラーマンティスという巨大カマキリだがキラーマンティスが使うはずのない毒液や痺れ針など今迄戦ってきた魔物の特殊攻撃を引き継いだような魔物だった。
まだ、戦闘力的には私とエイミィの敵ではないが何かがおかしいと感じていた。
ひたすら攻撃しかしてこないキラーマンティスを倒し様子を見る。
するとダンジョンでは黒い塵になって消える筈の魔物が溶けるように崩れ落ちて液状化すると床に広がった。
「これは明らかにおかしいです」
私の呟きにアリア姉様も同意する。
「はい、ダンジョンでこのような消え方はあり得ません」
アリア姉様が消えたキラーマンティスが床の液体を調べようとしたところで、後方から人の気配がした。
咄嗟にそちらの方に振り向くと黒い衣装に黒頭巾黒いマスクで目元だけが見える姿の人物がこちらに声を掛けて近づいてきた。
「驚かせて済まない、私は単独でダンジョン探索を生業にしているもので、貴方達を見かけたので声を掛けさせてもらった」
声質から男だと思われる。
見た目だけなら全身黒尽くめで怪しくはある。
しかもある程度離れていたとはいえ私では気配を感知出来なかったので単独では私より実力が上だということがうかがえた。
「そっ、それで何ようでしょうきゃ?」
クロエ姉様が私を庇うようにして前に出ると噛みながらも尋ねる。
「失礼、単にダンジョンでお会いしたので挨拶だけでもしておこうかと」
「そうですか、我々は昨日からダンジョン探索しております
恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら黒尽くめの男とやり取りを交わす。
「寧にかたじけない。私は元『天剣の誓い』のパーティメンバーでアイザック、通り名の『疾風迅雷』で呼ばれることもありますな」
「むぐっ、名乗られたからには名乗り返すのが礼儀。わたくしは……」
マリカ姉様が慌ててクロエ姉様の口を塞ぐ。
私も直ぐに察してパーティリーダーとして挨拶を交わす。
「私はパーティリーダーのクラリスです。アイザック殿わざわざお声掛け頂き感謝します。単独でココまで来られなんて余程の実力者なのですね」
「私の場合は気配を消すのが得意なだけですので」
「そうですか、冒険者の有り様も色々あるものですからね……アイザック殿、そろそろ我々は失礼させて頂いても?」
「ああ、急に声を掛けて済まなかった。女性だけの冒険者だったもので心配になってついな、この後も気を付けて進まれると良い」
「はい、ありがとうございます。それでは失礼して」
私達はアイザックと別れると次のフロアに向かった。
道すがらダンジョン攻略とは関係ない事だったので姉様達に尋ねた。
「あのアイザックと言われた方、あからさまに怪しかったですね」
「ええ、あれは間違いなくクロね!」
「ふぇえ、わっ、わたくしですか?」
「違うわよ! 何か企んでるって事よ」
「ああっ、そう言うことですか、それなら間違いないですね。昨日から私達をつけていた気配と一致しましたし」
珍しくクロエ姉様が噛まずに言いきった
「やはり、そうでしたか。巧妙に気配を断っていたので確証は持てませんでしたが」
アリア姉様も違和感は抱いていたようだがクロエ姉様の話で納得したようだ。
「それにしても、なぜクロエ姉様くらいにしか悟られない達人がわざわざ姿を見せたのでしょうか?」
「それは〜、目を逸らせたかったんだと〜」
「それって、何からよって……あっ!」
アリシア姉様の話でマリカ姉様も思い至る。
「「キラーマンティス」」
私と同時に答えを口に出す。
「稀に遭遇していた。凶暴化した魔物、その原因に関わりがありそうですね。あの方と話した後、床に広がっていた液状化した物体も消えてましたし」
「あー、まんまと引っ掛けるなんて情けない、今度会ったらただじゃおかないんだから」
マリカ姉様が息巻くところにアリア姉様が諌める。
「まあ、次は向こうも警戒して直ぐには尻尾は出さないでしょうけど」
その言葉通りこの後50階まで凶暴化した魔獣は現れずエリアボスのメタルガーゴイルは飛行している上に物理攻撃が効きにくかったがエイミィのごり押しと私の連撃で強引に倒した。
今回の探索はここまでにして転移陣を残して帰還することにした。
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