第36話 初めてのダンジョン


 ダンジョンの監視ゲートを通った先に石と木で補強された洞穴の入り口が見えた。

 パルラキア地下遺跡群は坑道から繋がるダンジョンで坑道自体は現在廃坑になっているが通路として利用されていた。

 通路にはランタンが設置されており魔力を供給すると光る仕組みで、暗視出来る冒険者などは魔力消費を嫌ってランタンを灯さずに進むこともあるとマリカ姉様が教えてくれた。


 私達に関してはマリカ姉様がいるので全てのランタンに魔力供給し最大レベルの輝度で光らせたのでまるで日中と変わらない明るさで地下遺跡群までの道を照らしてくれた。


「さすがですねマリカ姉様」


「この程度なら、アリシアでも出来るわよ」


「供給だけなら〜、確かに〜、出来ますけど〜、最大の明るさを〜、均一に調整する〜、魔力操作は無理ですよ〜、そういう…………」


 相変わらずのテンポで話すアリシア姉様に我慢しきれずマリカ姉様が遮る。


「ああもう、確かにアリシアは出力馬鹿だったわね、ちょっとした怪我でも【治癒ヒール】を【完全治癒フルヒール】と同等の魔力量で放出したのを最初見た時は信じられなかったわよ」


「マリカちゃ〜ん、そんなに褒めなくても〜」


「褒めてないわよ!」


 一緒にいることでよく見るようになった定番のやり取りに苦笑いしつつ先に進む。


 地下遺跡群の入り口は坑道の途中で唐突にあらわれた。

 土に埋もれた遺跡の防壁と思われる壁を貫いて入口が開いており、内側から魔物が出てこないように魔物避けの結界石が設置されていた。


 ここから先は魔物がいるという事で警戒して遺跡の中に侵入する。

 遺跡内は壁が仄かに光り薄暗いながらも視界は確保出来る明るさだった。

 低層階は私が経験を積むため、命に関わること以外はアドバイスは無しにしてもらった。

 指示も基本的には私が行い、その指示のもとでエイミィと姉様達に行動してもらう。

 魔物も大群でなければ私単独で処理する事に決めていた。


 そうしてダンジョンを突き進む。

 魔物は特に問題にはならなかったが、ダンジョン特有のトラップに何度か引っ掛かり、軽い怪我をしてしまいアリシア姉様のお世話になった。


 一番危なかったのは体を麻痺させるガスを噴霧してくるエリアで、それと同時にモンスターアラームで魔物が呼び出される罠と組み合わせれていた。

 私はまんまと罠にハマってしまった為、本能的に危険を察知したエイミィが魔物を駆除してくれて何とか助かった。

 低層階でやらかしてしまい落ち込んでいるとアリア姉様から昔、兄様も同じような罠で危険に陥ったことがあったと教えられて少し気が楽になった。



 ダンジョン化した領域は特定の規則制があり、10階層ごとにエリアボスが現れる。

 その特徴は分かりやすく部屋に踏むこむと部屋自体が別空間に連結する仕組みで兄様の使う【境界領域マージナルエリア】に似ていた。


 そして私達は10階層目に到達してすぐに入った部屋から別空間に繋がった。

 広がる空間の先にエリアボスと思われる身の丈10メルはあると思われる巨人が現れ、問答無用でこちらに突進してくる。

 すぐさま私はエイミィと姉様達には待機するように指示を出し、剣を抜くと単独で巨人に向かって走り出した。


 正直この階層レベルの敵に苦戦するようなら先が思いやられるということもある。

 何より兄様から頂いた剣が優秀でこれを携えておきながら、この程度の魔物に遅れを取るようなら私はグラシャス家の者を名乗る資格は無いだろう。


 突進してきた巨人は向かってきた私を標的と認識し巨体に似合わない速度で拳を繰り出してくる。

 しかしエイミィといつも稽古している私からすれば遅すぎる、しかもクロノキャリバーの柄に埋め込まれたスタールビーの魔力によって得られる常駐効果【真紅の閃きクリムゾンフラッシュ】の恩恵を受け、私は通常よりも何倍もの速さで動くことが出来る。

 私は難なく巨人の拳を躱すと、カウンターで腕を切りつける。

 残念ながら魔力を乗せていない斬撃では腕を断ち切るまでには至らず自身の未熟を痛感する。

 きっとアリア姉様やクロエ姉様なら魔力を乗せなくても容易に切断出来た事は想像がつく。


 腕を切りつけられた巨人は怒りの咆哮をあげ大気を震わせる。

 未熟な者がその声を聞けば恐怖に慄いただろうが私は姉様達に比べれば未熟なだけで、エイミィが訓練の時に放つ殺気に比べてもぬるいものである。


 威嚇している暇があれば攻撃を続ければ良いのに攻撃の手を止めた巨人はただの木偶と同じだ。

 しかも上に向かって叫んでいた為、自ら首をさらす形となっていた。

 私は魔力を剣に乗せると一閃のもとに叫ぶ巨人の首を切り落とした。


 フロアボスを倒したことで別空間から部屋が元に戻る。


「おっ、お見事でしたよ、妹様」


 終始見守ってくれていたクロエ姉様が褒めてくれた。

 自分では至らない所が多々有ったが、褒められれば素直に嬉しい。


「ありがとうございます。クロエ姉様。他の姉様達も見守っててくれてありがとう。もちろんエイミィもね」


「クラリス強くなったの知ってる! あれくらいどうってことないの分かってた。ぐっ!」


 エイミィが最近お気に入りの親指を立てる仕草で私を讃えてくれた。

 

 部屋が元に戻ったことでまた先に進めるようになると、まだ余力があったので更に先に進むことにした。


 結局、今の所私の天敵はトラップのようでそれ以外は問題無く進むことができた。

 20階層まで進むとフロアボスだったコカトリスと遭遇しこれを私単独で戦わせてもらい石化されることなく倒した。

 この時点でまだ余力は残っていたが兄様に言われたとおり無理をせず今日の探索を終了することにした。

 また、このフロアから攻略を再開するためにパーティ固有の転移陣をマーキングしてダンジョンから引き上げる。

 来る時は兄様に飛翔で送ってもらったので問題なかったが、帰りはマリカ姉様では全員を飛翔させることは出来ないらしく、歩いて街の屋敷へと帰るはめになってしまった。


 最後は締まらなかったが、最初にしては概ね成功といえる探索だった。

 ただ、気になったことはクロエ姉様が私達パーティの後方を気にしていたことだ。

 今日は他のパーティとは出会わなかったが、私が気付かなかっただけで、もしかして別のパーティがいたのだろうか?

 次、潜るときは私も気をつけて気配を探って見ようと思う、そしてこういった点でもまだまだ私には学ぶべき点が多い、いつになったら姉様達、そして兄様と肩を並べて歩む事が出来るのか……まだまだ遠い道のりに思わずため息がこぼれそうになった。

 

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