第50話 秘密の作戦会議
昼休みになると、夏樹は弁当を持って図書準備室へ向かった。
準備室の扉を開けると、既に冬陽と小日向が待っていた。
「図書準備室か。ここなら確かに、誰にも見つからずに話ができるな」
「へっへーん。そうでしょ? 図書委員の楓さんに感謝してよね、お兄ちゃん」
何故か冬陽が胸を張って自慢げに言う。夏樹が半目で冬陽を見ていると、小日向が夏樹の横を通って、準備室の鍵を捻って閉めた。
「今日は、担当の子と変わってもらってここを借りたんだー。ここなら、誰か本を借りに来ても、カーテンを最小限に開けて対応すれば、二人の姿は見えないしね」
小日向の言う通り、一カ所だけある窓を本棚に遮られた準備室は、図書室と繋がっている受付の窓を除けば外部から覗くことはできない。そこをカーテンで隠してしまえば、密会の場として上出来である。
夏樹は、受付の背後にある四人掛けの木製テーブルに座って弁当を置いた。夏樹の隣に冬陽が座ると、小日向が冬陽の向かいの席に腰を下ろした。
夏樹が弁当を広げると、二人の少女も弁当を開いた。
冬陽と夏樹の弁当は、無論夏樹の手作り二段弁当だ。今日は一口ハンバーグにきんぴらごぼう。それから冬陽が「卵焼きといえばもちろん砂糖入りの甘いやつよね? じゃなかったら、教室でお兄ちゃんって呼んでやるんだから」と、頑として譲らなかった、砂糖で味付けをした卵焼きが入っている。
「そう言えば、冬陽。今日はあいつを一度も見なかったな」
手を合わせて弁当に箸をつけようとした冬陽に言うと、冬陽はつんとそっぽを向いた。
「何を言ってるのお兄ちゃん。あいつ、ずっとわたしのこと見てたよ。休み時間どころか、授業中も」
「げっ、マジか。でも、一体どこから……」
「そりゃ、いろんなところから。休み時間は廊下や中庭から。授業中も同じようなところから。体育の時間に体育館出口から見られてた時は、もう悪寒で死ぬかと思ったわ」
冬陽が身震いしながらも卵焼きに箸をつける。
小日向は、そんな二人のやり取りを見て、何故か小声で言った。
「……もしかして、水橋先輩の事?」
「ああ。昨日はハグから始まって、休み時間ごとに猛烈にアタックしてきたのに、今日は何故か盗み見るようなことばっかりしてたって話」
「そうなんだ。それじゃあ、体育の授業中に冬陽ちゃんが私の背中に隠れようとしてたのは、それが原因だったんだね」
「あぅ……。はい、楓さんを盾にするようなことをしてすみませんでした」
卵焼きを口に運ぼうとしていた冬陽が、珍しくしゅんとする。小日向は眉を八の字にして笑顔を作ると首を横に振った。
「いいんだよぉ。それにしても、水橋先輩、まだ懲りてないんだね。元の冬陽ちゃんも、一時期はノイローゼになってもおかしくないくらい追い詰められてたし」
小日向の表情が曇る。どうやら、元の冬陽は小日向に相談していたらしい。
「あいつ、近いうちにビシッと言ってやんないといけないわね。覚悟してなさいよ」
「頼むから穏便に頼むぞ?」
眉間に皺を寄せてきんぴらごぼうを食べる冬陽に、夏樹は忠告する。
一方、小日向は冷凍食品のコロッケを箸で裂くと、冬陽に視線を向けた。
「確かに、水橋先輩の事は心配だね。でも、冬陽ちゃん。私に訊きたかったことって、その水橋先輩の事なの?」
「ううん。楓さんに訊きたかったのは、元のわたしが、お兄ちゃんの事をどう思っていたのかってことです」
「ど、どうって……」
「ぶっちゃけ、好きって言ってたかどうかです」
ぶふっ!? と、白飯を口に入れた直後の小日向が盛大にむせた。
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