クラン 小さくなった幼馴染の面倒を見ることになったんだが?

おっさん

第1話プロローグ

春野夏樹と秋月冬陽は、いわゆる幼馴染の関係だ。


 元々はマンションの隣人だった冬陽だが、両親の事故死を機に身寄りがなくなり、それ以降春野家に預けられた。もう10年も前のことだ。


 それ以来、夏樹は冬陽と共に育った。その仲の良さは普通の兄妹となんら変わらなかった。だが、中学生になった頃――夏樹の中にはある気持ちが芽生え、その気持ちを摘むのに必死だった。


 夏樹は自分が大嫌いだった。一緒に住んでいる冬陽に、恋をしてしまったからだ。

 何か特別な出来事があったわけじゃなかった。ただ、一緒にいるとワインに澱が溜まっていくように、好きという気持ちが降り積もっていった。夏樹の気持ちは、二人の関係が希薄になった後も続いた。


 夏樹にとって、冬陽は大切な家族だった。血は繋がっていなかったが、小さい時は寝る時も風呂に入るのも一緒だった。それを、無邪気な自我は成長するにつれて異性として意識してしまい始めた。


 けれど、夏樹の中の冬陽への想いは、日に日に膨らむばかりだった。学校にいる間も、ふと隣の席にいる冬陽が気になる。部屋で寝転んで漫画を読んでいても、隣の部屋にいる冬陽が気になる。洗濯ものを取り込む際、冬陽の下着を見て動悸が収まらなかったこともある。彼は悩み、自分に嫌悪しながらも……決めた。


 高校二年の5月12日。夏樹は隣の部屋から冬陽を呼び出し、こう言った。


「……俺、冬陽のことが好きだ。か、家族としてじゃなくて、一人の女の子として」

 

言った。言いきった。夏樹は窒息しそうな息苦しさから解放された感覚に襲われ、同時に新たな緊張に身を強張らせた。


 冬陽は、黙ったままだった。驚いているに違いない、と夏樹は思った。


 今まで家族として育ってきた相手に告白されたのだ。冬陽からすれば、双子の兄に告白されたも同然だろう。動揺して当然だ。


 夏樹は冬陽の言葉を待つ。しかし、それはいつまで経っても紡がれなかった。


 ドサリ、と。冬陽の身体が崩れてフローリングの床に倒れ伏す。夏樹は慌てて冬陽を抱き起すが、意識はなかった。


 冬陽はそのまま病院へ運ばれた。夏樹が面会を許されたのは、それから二週間後だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る