蓮花枯凋

故水小辰

誅魔

 風塵は濃厚な血の臭いを孕み、額を伝う血と汗が視界を濁らせる。赤みがかった幕の向こうにいるのは、己と同じように地面に膝をつき、しかし力なく頭を垂れて微動だにしない黒衣の男だ。僅かに開かれた口からは絶えず鮮血が滴って、地面に赤い水たまりを作っている。

 術は成功した。桃修苑とうしゅうえんは残った力を振り絞り、地面に突き立てた長剣に全体重を預けて立ち上がった。震える脚を引きずり、普段の何倍も重く感じられる剣を引きずり、視界に流れ込む血と汗を無理やり拭い、黒衣の男に歩み寄る。それはかつて同じ師のもとで学び、育ち、腕を磨き合い、妖魔の殲滅と人間の平安を誓って共に肩を並べて戦った兄弟子であり、同時に彼が一生をかけて誅すべき宿敵だった。焔獄界えんごくかいの魔王枯雨亡こうぼう、またの名を仙士楊蓮鋒ようれんほう。だが今は、彼はそのどちらでもない、空虚な一つの器となっていた——そしてこの器を絶たない限り、枯雨亡は何度でも蘇って災厄をもたらす。桃修苑は痺れる腕を持ち上げて、剣の切っ先をその首筋に添えた。震える手にもう片方の手を重ね、両手で柄を握りしめると、桃修苑は思い切り剣を振るってその首を刎ね飛ばした。

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