『あい』とは

ハレルヤ

始まりと出会い






人は誰でも、誰にも言えない過去や秘密がある。もちろん、僕にも彼女にも。







高校1年生の僕、桐嶋愛斗きりしまあいとは、夏休みだというのに学校でクラスメイトと文化祭の準備をしていた。

僕はこんな柄じゃないのだが、こうなったのには理由がある。


僕たちの通う高校は田舎の公立高校で、生徒のほとんどは中学校からの同級生である。その中でも、とりわけ仲のいい8人組のグループがそのまま僕と同じクラスになってしまったようなのだ。

転校してきた僕にとっては全く迷惑な話なのだが。


仲良しばかりのクラスでは案の定準備が全く進まず、結果僕は例の8人組のグループの人達に準備に駆り出されてしまったという訳だ。


正直僕はこのグループの人たちと接するのが得意ではない。だが、


「桐嶋君、そっちの準備はどれくらい進んだ?」

「え、まぁ、結構進んでるよ。」

「そう、良かった。じゃあもう少しだけ頑張ろっか。」

羽田はねださんに話しかけられて僕は不意にドキッとした。


羽田さんはクラスのマドンナ的存在で、休み時間にはいつも彼女の周りを多くの生徒が囲んでいる。まぁ簡単に言えば僕とは正反対の存在だ。


彼女もクラスの仲良し8人組の1人なのだが、僕には彼女だけは他の人とはどこか違うような、懐かしい感じがしていた。


「おい、お前また羽田さんと話してたな、マジで羨ましいぞ。」

一緒に準備に連れてこられた阪井夕汰さかいゆうたが言った。


「お前、なんでそんなに羽田さんと仲良いんだよ。もしかして付き合ってんのか?」

「そんな訳ねーだろ、相手はクラスのマドンナ、こっちは平凡な陰キャ。不釣り合いにも程があるだろ。」


僕は思わず言った。


「お前さぁ、なんでそんなひねくれた考えしか出来ないんだよ。別にそんな顔も悪くないし、ぶっちゃけモテそうな感じだよ。」


「…顔だけじゃないんだよ。」


それ以降は彼とも口を聞かなかった。


そうこうしているうちにその日の作業は終了し、僕は家路につこうとしていた。その時、後ろから足音が近づいて来ているのを感じた。


「桐嶋君。」


不意に全身が寒気に覆われた。


「良かったら一緒に帰らない?

あれ、大丈夫?なんか顔色悪いよ?」

「え、いや、別に大丈夫だよ。」

「準備頑張りすぎて疲れたんじゃない?笑」


羽田さんと一緒に帰るのは今日が初めてだった。


夕陽が彼女の顔を赤く染める。


青春系の甘酸っぱい映画のワンシーンにありそうな横顔だった。どこかで見た事があるような、僕にはそんな感じがした。僕は彼女の事をずっとぼんやり眺めていた事に気づいた。彼女も同時に気づく。


「どうしたの?何か顔についてる?」

「いや、なんでもないよ。」


僕は慌てて答えた。

もしかしたら僕は彼女の事が好きなのかも知れない。自分では到底彼女に見合わないのはわかっているはずなのに。そう思いながら、気づけばT字路まで来ていた。


「じゃあ、僕こっちだから。」

「あ、ちょっと待って。」


彼女の声が僕の足を止めた。


「明日文化祭の買い出し行くんだけどもし良かったら一緒に行かない?」

「僕なんかと一緒でいいの?」

「え、何がダメなの?」

「いやダメじゃないけどさ。」

「じゃあ良いって事だね。明日10時に中央公園の時計台の前集合ね。」


こうして、僕と彼女の止まっていた時計の針は動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る