写真

勝利だギューちゃん

第1話

「どうしてるなか、彼」


私は一枚の写真を見ている。

制服姿の私と、隣には男の子が映っている。


私と彼とのツーショット写真。

まだ、フィルも写真だったころに、彼と撮った。


桜舞う卒業式の日だ。

彼にお願いされて、一緒に撮った。


彼と言っても、文字通りの三人称の意味で、恋人という意味ではない。


私はいたずらっぽく、腕を絡ませた。

ドキドキしていた、彼がかわいかった。


卒業後は会っていない。

私は、卒業してからしばらくして、引っ越しをした。


その連絡先は、彼に教えておいた。

でも、連絡が来ることはなかった。


なので、卒業後は会っていない。


彼の名は、五十嵐功暁(いがらし かつあき)

正直、名前負けしている印象がある。


でも、功暁には、【自分の好きな道で成功してほしい】という、意味がある。


彼は、クリエイター志向だった。


「もしかしたら、ペンネームで活動してたりして・・・」

そう思うと、笑みがこぼれる。


私も彼が、好きだったのかもしれないな・・・

もう、遅いけどね。


そんな私も、結婚して一児の母となった。

お相手は、いわゆる職場結婚。


「ママ」

5歳になる、娘がやってきた。

「なあに?」

「絵本読んで」

娘は一冊の絵本を差し出した。


【おうちにかえろうよ】


かわいらしい絵が描かれている。


「この本、どうしての?」

「みよちゃんに借りたの」


みよちゃんというのは、娘のお友達。

とても仲がいい。


この本の作者は・・・

文も絵も、同じ方か・・・


えーと、いがらしかつあき・・・


えっ?

同姓同名?


「どうしたの?ママ」

「ううん。今読むね」


娘はとなりで、笑顔で聞いている。

読んでいて私も、心が暖かくなった。


読み終えた後は、とても心地よかった。


「ママ、面白かったね」

「そうだね」

「でもママ」

「何?」

「この主人公のお姉さんの名前、ママと同じだね」


確信した。

功暁くんだ。


間違いない。


私は、彼との写真を眺めた。


「おめでとう」

もう、会うことはないであろう彼に、その言葉を送った。


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写真 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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