第6話 彼女と存在
「……戸籍がない?」
「そ。国民として認知されてないの。だから、どれだけ私を探しても私には辿り着けないの。――あの人にも」
戸籍が無いなんて、そんなことありえるのか?
なら、彼女は今までどうやって生活してきたんだ?
生活をしていくうえで、公的機関とは少なからず関わるはずだろ。
学校、引っ越し、出生――。数えればいくらでも出てくる。
ルビアの衝撃の発言は、俺に大きな動揺と困惑をもたらした。
親が色々と面倒を見てきたのだろうか。でも、それなら彼女にその親はもう――。
けれど、一つ確かなことは、ルビアの話が本当なら、ルビアは戸籍が必要なことは何一つできていないということになる。
それって、とても狭い世界に生きてるんじゃないのか?
俺はルビアと出会って、まだほんの二日くらいの付き合いだ。でも、そんな上辺だけの知識でも、彼女が満足に生きれていないということだけは分かる。
それなら、俺にも彼女にしてあげられることがあるんじゃないか?
ルビアにとっての唯一の証拠は今、俺しかいない。俺が下手をしなければきっと、彼女が疑われるようなことは無い。
「……分かった。じゃあ、一緒に買い物に行こう」
「うん!」
彼女の嬉しそうな返事で、彼女も外の世界を知りたがっていたということが伺えた。
でも、本当は俺の方が彼女と出かけられるのが楽しみだったということは、ここだけの秘密だ。
「ねえ、ここは?」
「ここってコンビニのことか?」
「へぇー、コンビニ‥‥‥」
まさか、コンビニを知らないとか言わないよね?
一体、ルビアはどんな生活をしてきたのだろうか。
俺はお金を引き下ろしに近くのコンビニに立ち寄っていた。
「えっと……うわ、こんなに?あの人ら、俺の大学費用は一切出さないくせに……」
ホントに、我が親ながら呆れてしまう。
それでも、俺に彼女ができたと言えばお金を出してくれるだけマシだと思おう。
俺とルビアはお金を引き下ろした後、バスに乗車し、今日の目的地である大型ショッピングモールへと向かっていた。
俺とルビアは、バスの一番後ろの席に並ぶ形に座っている。
「なあ、もしかして、バスに乗るのも初めてなのか?」
「ば、バカにしないでよ。バスくらい乗ったこと事あるよ。‥‥‥一回だけ」
一回て……。そもそも、彼女は一体どこから、どうやってここまで来たのだろうか。私は不思議でたまらない。
でも、それは聞かない方が良い気がした。
聞けば、きっとあの表情にさせてしまう。そんな気がする。
それに、バスの車窓から流れる景色を懐かしそうに眺めるルビアに、余計な思考を挟むのは無粋に思えた。
「そういえば、何を買いに行くの?」
「ん?そりゃあ、いっぱいだよ。ルビアの生活用具一式に、衣服も買わなくちゃだろ?あと、布団に――」
うーん、もしかしたら思ってる以上に費用がかさむかもしれないな。
さすがに、彼女も思うところがあるようで、心なしか申し訳なさそうにしているように見えた。
その後も、ルビアは外を流れる景色を目新しそうにしていた。
俺にとっては何気ない風景でも、彼女にとっては新鮮な風景なんだ。
だけど、俺にとっても、君がいるこの景色はとても新鮮だった。
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