電子の歌姫

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 皆の人気の歌姫。

 名前は アイルゥ・セカンドハート。


 私は、サイバーアイドルAIとして活動している。

 毎日歌って、踊って皆に笑顔を届けるんだ。


「みんなー。今日も私の歌を聞いてくれたありがとー。これからも頑張るから、おうえんしてね!」


『アイたん、きょうもかわいー』『さすが歌って踊れるサイバーアイドル!』『働きものですなぁ!』


 私の歌で盛り上がってくれる皆の反応を見るのが、私の楽しみ。

 最初は、数人そこらしか聞いてくれなかったのに、今では何万ものファンがいてくれてる。


 とっても嬉しいな!


 そんな私は、ファンからのプレゼントもたくさん。


 ポリゴンで作られた手作りのぬいぐるみとか花束とか、たくさんもらっちゃう。


 けれどある日、名前のないプレゼントを受け取ってしまったの。


 いつもなら、危険なウイルスが入っていないか、マネジャーがチェックしてくれるんだけど、その日はうっかりしてたみたい。


 後になって、それがウイルスの入ったビックリ箱だと気が付いたの。


 けど、気づいた時にはもう遅い。


 私は、そのウイルスに感染してしまった。


「いやっ、誰か助けて!」


 ウイルスに仕込まれていたのは、自壊させる毒薬のようなものだった。


 体を蝕まれた私は、崩れていく自分をみて、ショックを受けてしまった。


 AIプログラムっていう生き物はね。


 精神的な苦痛にすごく弱い生き物なの。


 だから、「もうだめ」って思ったら、消滅はあっという間。


 体が壊れていく中で、私は死を覚悟したわ。


 けれど、助けてくれる人がいた。


 マネジャーがウイルスから無事だった部分を切り離してくれたの。


 でも、急いでその作業を行ったものだから、私はどこともしれない電子世界に吹き飛ばされてしまったわ。





 飛ばされたのは、真っ暗な世界。


 誰の気配もしない。


 そこは廃棄された、電子世界だったみたい。


 私はすぐに元の世界に帰ろうとしたんだけど、暴走したAIに追われているうちに、どこかに閉じ込められちゃった。


 このまま、ここで誰にも会えないままなのかな。


 私は不安にさいなまれた。


 私は、ただのAIだ。

 この体はデータで、ただのプログラムだ。


 でも私は生きたい。


 だから、皆に助けを求める事にした。


『お願い、皆! 私を助けて!』


 意思あるAIに宿る不思議な力。その力を使って、直接現実世界にいる者達にSOSを発信したの。


 皆は応えてくれるかな。







 僕達はとあるサイバーアイドル、アイルゥ・セカンドハートのファンだ。


 いつも、彼女の歌にお世話になっている。


 彼女の歌を聞くと、気分が明るくなるし、頑張ろうって気になる。


 だから、ずっと応援したくなるんだ。


 でも、最近姿を見なくなってたから、少し心配だった。


 そんな時に、声が聞こえた。


 それは、彼女からのSOSだ。


 僕達はすぐに行動に出た。


 僕達の大切なアイドルを見つけるために、特殊なプログラムを電子世界に流し込む。


「よし、成功だ」


 その起動したプログラムで、彼女は星のかけらとなった。


 これで、閉鎖された世界から脱出できたはず。


 あとは落ちてくる君を見つけて、受け止め、つなぎ合わせれば良い。


 



 作戦決行は今から七時間後。


 電子世界を彩る、流星群が見られるはずだ。


 そして、その時は来た。





 青い月が空に浮かぶ夜。


 夜空の世界。


 アイドルを始めたばかりの君が立った、仮想世界の初舞台。


 君はポリゴンのかけらになって、星屑になって、空から落ちてくる。


 生きたいという願いは届いた。

 僕らはそれを受け取ろう。


 君は多くの人に愛されているんだ。


 だから、こんな事で消えていいはずがない。


 ほら。


『アイルゥたん。大丈夫だお』『心配しないでちゃんと見つけるわ』『ステージ楽しみにしてるよ!』


 電子の海から消え去った君を心配して、現実の世界からこの仮想世界に何千・何万もの人がかけつけてきてくれたんだ。


 君の為に祈り、願い、想う。


 人々の気持ちがこの「星を映す目」に伝わってくる。


 かつてAIだった魂から、生まれ変わったこの僕。


 その目に宿るのは、同胞を探す力。


 誰にも出会えずに終えた前世だったけれど、それはきっとこの時のために、あったんだ。

 だから、探すよ。


 君はいま、どこにいるんだい?






 あの事件から数週間後。






 わぁぁ、という歓声が聞こえてきた。


 今日は特別だから、動画配信じゃなくて、仮想世界でのライブ。


 現実世界からかけつけてきてくれた人たちが、観客席を満たしてくれた。


 綺麗に飾り付けられた星空の下の舞台。

 まぶしいステージライト。


 私は多くの人の拍手を聞きながら、ファン達の目に映るの。


『おかえり』『おかえりなさい!』『よく帰ってきたね!』


「みんな、ただいまっ!」


 私は帰ってきたよ。


 皆が見つけてくれたから、帰ってくることができたんだよ。


 だから今日も、皆の為に歌うね。


 いつも皆の為に歌ってるけど、いつもよりも、ずっとずっと皆を思って歌うね。


 これからもずっと、耳を傾けていてほしいな。


 私の歌、聞いてください。


 みんな。

 ありがとう。


 だいすき!


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