第30話 突入
アンブレイカー、フォトンホープ、ピュアウィンドの三人は、空中要塞ベレヌスのレーダー波の範囲外にある航空自衛隊基地から輸送機に乗り、限界高度ギリギリまで飛んだ。
そして――
「風よ。翼なき我らに加護を」
ピュアウィンドが発生させた翡翠色の風が、傍にいたアンブレイカーとフォトンホープもろとも球状に包み込む。
その様は、さしずめ
後部ハッチが開いたところで、翠風の結界は浮き上がり、輸送機の外に出るや一気に二〇〇〇〇メートル上空まで飛び上がる。
そこから自然風に乗り、空中要塞ベレヌスを目指して滑空した。
「こんな高度なのに寒くもなければ息苦しくないこともそうだけど、なんというか、風の中に立っているというのも不思議な感じだね」
フォトンホープの感想に、ピュアウィンドはクスリと笑う。
「すぐに慣れるよ、フォトンホープ」
「というより、今すぐにでも慣れてもらわないと困るな」
言いながら、アンブレイカーは翠風の結界の外側に見える、月明かりに照らされた玩具大のベレヌスを睨みつける。
フォトンホープとピュアウィンドが知らず知らずの内に息を呑む中、空を駆ける三人はどんどんベレヌスとの距離を縮めていき、玩具程度の大きさだったベレヌスがどんどん大きくなっていく。
いよいよ、畏怖を覚えるほどの大きさになるまで近づいたところで、
「くるぞ」
そうアンブレイカーが告げた瞬間、ベレヌス外壁のそこかしこに備えつけられた砲座が、こちらに向かって
「もう気づかれるなんて……!」
驚くピュアウィンドに、アンブレイカーはあくまでも冷静に応える。
「どうやらベレヌスには、人間のみに反応するレーダーのような物が備えつけてあるようだな。それよりフォトンホープ」
「わかってます! フォトンシールド!」
こちらに迫るビームを、フォトンホープは掌を前方にかざし、光の盾を展開して防御する。
「ピュアウィンドは、ベレヌスに近づくことだけに専念して! 手筈どおり、向こうの攻撃は全部僕が防ぐから!」
ピュアウィンドは「うん!」と答えながらも翠風の結界を操作し、音速に迫る勢いで真っ直ぐにベレヌスに突っ込んでいく。
襲い来るビームを、フォトンホープの
このまま一気に――そんな思惑を挫くように、その男は姿を現した。
太陽のピラミッドに似た、ベレヌスの頭頂部。
そこには《ディバイン・リベリオン》三幹部の一人、ダークナイトが立っていた。
ダークナイトは右腰に差していた
魔剣による遠距離斬撃――
その声を聞いてからの、アンブレイカーの判断は早かった。
「ピュアウィンド。風の力で、私を直接ダークナイトに目がけて吹き飛ばしてくれ」
「そ、そんなの、いくらアンブレイカーさんでも危険すぎます!」
血のように赤い魔剣の刃に、同色の凶光が宿るのが見えた瞬間、アンブレイカーにしては珍しく、腹の底に響くような大声を上げた。
「早くするんだッ!」
「は、はい!」
言われてて慌てて、ピュアウィンドはアンブレイカーの背中に掌を添え、
「ごめんなさいッ!」
と意味もなく謝りながらも、風の力で吹き飛ばした。
直後、ダークナイトが魔剣を振り抜き、血赤の閃刃が
ほとんど同時に、ピュアウィンドの力で吹き飛ばされたアンブレイカーが翠風の結界を突き抜けていく。
一個の砲弾と化したアンブレイカーと、ダークナイトが放った閃刃がぶつかり合い、およそ人体が鳴らしたとは思えない硬質の絶叫がベレヌス直上にこだました。
アンブレイカーの鋼の肉体によって逸らされた閃刃が、翠風の結界の脇を通り過ぎ、そのはるか後方にあった巨大な雲を真っ二つに斬り裂く。
閃刃は防げど空中の軌道を変えられてしまったアンブレイカーは、ダークナイトがいる頭頂部ではなく、ピラミッドの中腹あたりに突っ込み、勢いをそのままに外壁をぶち抜いていった。
「アンブレイカーさんっ!!」
ピュアウィンドは悲鳴じみた声を上げながらも、事前に手渡されていた無線機を使ってアンブレイカーに呼びかけようとする。が、ベレヌスから妨害電波が発せられているのか無線機はウンともスンとも言わず、青ざめてしまう。
そんなピュアウィンドの肩を、フォトンホープは優しく掴んだ。
「大丈夫。アンブレイカーさんの肉体が本当に傷ついたのなら、
閃刃とぶつかり合った際に生じた硬質の絶叫を思い出したのか、ピュアウィンドは「あ……」と声を漏らした。
「アンブレイカーさんの〝鋼〟が、魔剣の一閃すらも弾いたんだ。だからアンブレイカーさんは無事だ。それより僕たちも続こう。ピュアウィンド」
「うん!」
ピュアウィンドは翠風の結界を加速させ、ピラミッドの麓あたりに突っ込み、先のアンブレイカーと同じように外壁をぶち抜いてベレヌスに侵入する。
本当はアンブレイカーと同じ場所から侵入したかったが、ダークナイトが再び閃刃を放とうとしていたため、やむなく頭頂部から遠い場所から侵入した次第だった。
ベレヌス内の壁や床を何層がぶち抜き、勢いが止まったところで、ピュアウィンドは翠風の結界を解除する。
「これは……」
フォトンホープは、外装に負けず劣らず機械的な内装をしている通路を見回しながら、圧倒されたようにポツリと漏らした。
「実際に中に入ってみると、なんていうか、未来に迷い込んだような気分になるね」
柔らかな物言いとは裏腹に、緊張に満ちた声音でピュアウィンドが言っていると、
「いたぞッ!!」
通路の向こうから、お馴染みのパワードスーツに身を包んだ戦闘員が大挙としてこちらに押し寄せてくる。
「てめぇら、さっさと集まれッ!!」
背後からも、続々と集まってくる戦闘員たちが押し寄せてくる。
「さすがに数が多いな……! ピュアウィンド、
その言葉が敵を迎え撃つ覚悟ではなく、「絶対に敵を殺すな」というアンブレイカーからの
こうして、ヒーローと《ディバイン・リベリオン》の決戦の幕は切って落とされた。
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