第15話 ダークナイト
テルトノート。
それは地球人類が接触した二例目の異世界であり、《ディバイン・リベリオン》三幹部の一人、ダークナイトの故郷でもある場所だった。
文化レベルはこちらの世界で言う中世ヨーロッパと同程度だが、こちらの世界にはない魔法や
また、テルトノートの人間は生まれてすぐに施される意思疎通の
そういった点においては、むしろ地球人類よりもテルトノート人の方が優れているとさえ言えた。
もっともダークナイトには、愛国精神ならぬ愛世界精神と言うべきか、とにかくテルトノートに生まれたことを誇ろうという気概は持ち合わせていない。
ダークナイトは、その実力と魔剣クライドヒムの力を恐れたテルトノートの為政者たちに嵌められ、恋人を、家族を、殺された。
当時、《ディバイン・リベリオン》創設のための同志を求め、テルトノートを訪れていたグランドマスターが手を差し伸べてくれなかったら、ダークナイト自身も野垂れ死んでいたところだった。
ゆえに彼の中にテルトノートを愛する心はなく、郷愁を抱くことはない。
命を救われ、恋人と家族の仇を討つ手伝いまでしてくれたグランドマスターの恩に報いるために、この剣を振るうのみ――そう思っていた彼も、さらにもう一つ剣を振るう理由ができたことは完全に想定外だった。
その想定外を生んだのが、カーミリアだった。
カーミリアは、四年前にグランドマスターが同志として連れてきた。
あの時の衝撃は今でもよく覚えている。
カーミリアの容姿は、ダークナイトの恋人――ミリアと瓜二つだった。
おまけに
生きている人間に死んだ人間の影を重ねることが、どれほど礼を失した行為であるのかは重々承知している。
けれど、承知してなお重ねずにはいられなかった。
理屈で押さえ込めるほど、心の奥底から湧き上がる情動は
自分はまだ、ミリアのことを愛している。
だから、結ばれたいなどと烏滸がましいことを考えるつもりはない。
ただ、死なせたくないと思った。
ただ、幸せになってほしいと願った。
だがこの世界は、彼女が幸せに生きられるようにはできていなかった。
そんな世界を変えることを、彼女は望んだ。
そんな世界は変えるべきだと、ダークナイトは思った。
それがそのまま、増えるはずがないと思っていたもう一つの、剣を振るう理由になった。
「……時間だな」
校舎一階の廊下に佇み、物思いに耽っていたダークナイトは、閉じていた瞼をゆっくりと上げる。
巡らせていた思いを心の片隅に追いやると、懐から取り出した光輝く〝釘〟を
力を込める必要はどこにもなく、〝釘〟の先端を床に触れさせただけで、呑み込まれるようにして地の底へと沈んでいった。
「これで残るは、あと一本」
その一本さえ刺し終えれば、審判計画を最終段階に進めることができる。
グランドマスターとカーミリアが目指す世界に大きく近づく、布石を打てるようになる。
そんなことを思いながらも、視線を来た道の向こう――校庭がある方角へ向ける。
校庭では、強い力を持った二つの気配が激闘を繰り広げていた。
気配の一つは、言うまでもなくオーガのものだった。
そしてもう一つは――
「
剣士ゆえか、それとも純粋に持って生まれた才能ゆえか、ダークナイトは気配を察知する術に長けている。
気配の主が今何をしているのかを、どれほどの力の持っているのかを、それこそ気配だけで察することができるほどに。
さらに付け加えると、直にこの目で確かめれば相手の力量のみならず、得手不得手さえも朧気ながら察することができる。
そのため要所要所での人員の選定の際は、カーミリアも、グランドマスターさえも、彼の目を頼るようにしていた。
まさしく人を率いるためにあるような特技だが、肝心のダークナイトが絶望的なまでに人を率いることに向いていないため、使いどころが限定されてしまっているのが組織としては痛し痒しだった。
兎にも角にもダークナイトは魔法じみた気配察知力をもって、校庭で繰り広げられている戦いは、オーガが優勢であることを把握していた。
「!」
ここから遠く離れた、それこそ何十キロも離れたところから、「かなり強い者の気配」と、「恐ろしく強い者の気配」が近づいてきているのを察知し、眉根を寄せる。
「どうやら、思っていた以上に状況は逼迫しつつあるようだな」
後者の気配は到着にはまだ少し時間がかかるが、前者の気配は凄まじい速さで近づいてきているため接触は免れない。
カーミリアに頼まれたということもあるが、デストロイヤ亡き今、オーガという戦力を失うわけにはいかないので、ダークナイトは急ぎ校庭に戻った。
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