第12話 任務当日
任務当日。
大地はアジトの自室で、その身に纏ったボディアーマーの装用感を確かめていた。
このボディアーマーは生体サイボーグになった大地のために椿が開発したもので、意匠は戦闘員をやっていた時に身につけていたパワードスーツとほぼ同じ。
装用感も特段問題なかった。
機能に関しては、大地のアイデアどおりパワードスーツから補助機能を
勿論、耐寒性や耐熱性などはそのままだ。
「問題はこっちだな……」
げっそりと独りごちながらも、フルフェイスマスクの代わりに用意されたそれを手に取り、微妙な顔をする。
ボディアーマーと同じ黒色の、褒めるのも貶すのも憚るほどに絶妙に微妙な鬼面だった。
今後はどうなるかは不明だが、今回の任務に限れば
「ま、まぁ……無駄に凝ってねぇだけマシだな」
誰も聞いていないが、惚れた女が作ってくれた仮面を無理矢理にでも褒めておく。
機能を追及した場合は普通に洗練したデザインを生み出すため、つい失念していたが、椿の美的センスが人とは微妙にズレていることを、手遅れなタイミングで思い出した大地だった。
諦めきったため息をついてから鬼面をかぶり、自室を後にした大地は、隠密輸送艇アオス・シの発着場を目指して通路を行く。
途上、別の通路と合流する地点に辿り着いたところで、まさしく合流した通路からやってきたダークナイトとばったり出くわした。
ダークナイトの視線が、大地の
「いや、何か言えよ」
競歩でもしているのかと、文句をつけたくなるほどの速さで歩くダークナイトを追いながら、大地はツッコむ。
ダークナイトは返事をよこすどころか、一瞥すらよこすことはなかった。
(デストロイヤのおっさんと違って、マジで取っつきづれぇなコイツ)
心の中で愚痴りながらも、副官に選ばれてから今日に至るまでの数日間、ダークナイトとはずっとこんな調子だったことを思い出す。
任務について必要最低限の会話を交わすだけで、無駄口は皆無。
人の上に立つよりも、一匹狼をやっている方がしっくりタイプだった。
デストロイヤが副官をつけていなかったことを鑑みるに、単純に社交性が皆無なせいでダークナイトの代わりに下の者たちを取り仕切る存在が必要だったのではないかと、勘ぐりたくなってくる。
(あと気になるのが、な~んかオレに対してだけ、やけに視線がきつい気がすんだよなぁ)
最初はこちらが敬語もろくに使えないことに不快感を抱いているのかと思っていたが、椿から聞いた話によると、ダークナイトも大概に敬語が使えないという話なので、なおさらきつい視線を向けられる理由がわからなかった。
わからないといえば、そもそもダークナイト自体が謎の多い人物だった。
わかっていることといえば、組織の最古参であること。
この世界とは違う世界――有り体に言えば異世界の剣士であること。
そして、魔剣クライドヒムと呼ばれる、人智を超えた力を有した剣を自在に操る、デストロイヤを超える実力者であること。
それだけだった。
(椿に聞こうにも、アイツ、人のプライバシーをペラペラ喋るような奴じゃねぇからなぁ)
まぁ、そういうところも惚れた理由の一つになってるわけだが――と、付け加えながら、ダークナイトを追って歩き続ける。
それからしばらくして、結局一言も会話を交わさないまま発着場に到着する。
全翼機のように見えて、その実
大地は、ダークナイトの一歩斜め後ろを位置取る形で構成員たちの前に立つ。
今までならば自分も彼らと同じように並び立っていたことを思うと、今こうして三幹部と同じ景色を見ている状況には、少なからず感慨というものを覚えてしまう。
彼らの命を預かる立場に片足を踏み入れたという重圧とともに。
(たぶんデストロイヤのおっさんも、こんな気分だったんだろうな)
感傷的な内心とは裏腹に、鬼面の下では獰猛な笑みが浮かんでいた。
重圧を前に怖じ気づくほど、大地の神経は細くない。
そんな大地をよそに、ダークナイトは眼前の構成員たちに向かって淡々と告げる。
「多くは語らぬ。ただ、あともう少しで
任務についての詳細を知らない構成員たちの間に困惑が拡がる中、
「オーガ。
それだけ言い残し、踵を返してアオス・シに乗り込んでいった。
「オレは今回、あの朴念仁の副官を務めることになったオーガだ」
すでにもうアオス・シに乗り込んだダークナイトを、見もせずに親指でさし示す。
掴みがよかったのか、
「今回の任務は煌成高校の占拠だ。やるべきことについては、まぁ、全員とっくに頭に叩き込んでるだろうから、それこそ多くは語らねぇ。だから、オレからテメェらに言っておきたいことはこれだけだ」
大地は大きく息を吸い込み、大音声を構成員たちにぶつける。
「あの朴念仁が言っていたとおり、あともうちょいだッ!! あともうちょいで一連の任務が終わり〝次〟に進めるッ!! 詳しい話は口止めされてっから教えてやれねぇが、〝次〟についてはオマエらのテンションがブチ上がること間違いなしってことだけはこのオレ、オーガが保証してやるッ!! だからこの任務ッ!! ぜってぇに成し遂げるぞッ!!」
話せないことは堂々と話せないことを認めながら、気勢をそのままに拳を天に突き上げる。
構成員たちも大地に倣って拳を突き上げ、地を揺らさんばかりの応を返した。
即興の割には上手くいったことに、大地は内心胸を撫で下ろす。
(そういやデストロイヤのおっさんも、こんな感じでオレたちの士気を上げてたっけな。そんで、オレの隣にはセブンがいて……)
そこまで考えたところで、大地は皆に気づかれない程度に小さくかぶりを振って気持ちを切り替える。
さすがに感傷的になりすぎたと自戒する。
「いくぞッ!! 野郎どもッ!!」
今日一番の大音声を上げながら、踵を返してアオス・シに乗り込んでいく。
構成員たちも再び地を揺らさんばかりの応を返すと、大地に続く形で乗り込んでいった。
ほどなくしてアオス・シは、一〇〇人の人員を輸送できる巨体からは想像もできないほど静かに浮かび上がり、光学迷彩でその身を空に溶かしながら、目的地である煌成高校を目指してアジトから飛び去っていった。
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