彩り(短編)
KH
第1話
〇向山高校・外観
一般的な公立高校。校門の前には大きく卒業式と書かれた看板。
〇同・体育館
卒業生が舞台に段になって並び、歌っている。それを聞いている在校生、教師、保
護者。卒業生のなかには泣いている生徒が多くいる。
〇同・渡り廊下
校舎と校舎をつなぐ三階の渡り廊下。微かに体育館から歌声が聞こえている。そこ
で晴天の空を見上げている吉瀬尚也(18)。彼の足下にはトランペットのケース
がある。
そこへやってくる瀬川彩美(17)
彩美「なにやってるんですか? 卒業生」
尚也、彩美を見て笑う。
尚也「まだ在校生だよ。彩美ちゃんもサボり?」
彩美「そうですけど、自分の卒業式サボるあなたと一緒にしないでください」
尚也「そんなこと言って、彩美ちゃんは来年もサボるんでしょ」
彩美「出ますよ、今日サボったのは尚也がいないってわかったからです」
尚也「さすが、マイガールフレンド」
彩美、ため息をつきながら尚也の隣りに立つ。お互い眼は合わせない。
彩美「何を見てたんですか」
尚也「未来。なんつって」
彩美「……」
沈黙する一同。体育館から歌声が聞こえている。
尚也「前から思ってたんだけど、なんで歌うんだろうね。式典とか色々なところでさ。強制される意味がわからないよ」
彩美「一体感を高めるためじゃないですか」
尚也「一体感。まぁ日本人らしいかな」
彩美「いいじゃないですか、国民性。西洋の個人主義は野蛮でしかありません」
尚也「さすがザ・大和撫子。そんな君がここにいるのはおかしくない?」
彩美「……尚也こそ、察してここにいたんじゃないですか」
沈黙する一同。
尚也「式が終わったらでもよかったよ」
彩美「人気者の自覚あります? 二人で話す機会なんてありませんよ」
尚也「夜に会えばいい」
彩美「それは無理です」
尚也「どうして?」
彩美「自分からはきっと会おうと思えないから。約束がない無条件で好きな人と会える、学校でがよかった」
尚也、微笑んで
尚也「好きな人って、言ってくれるんだ」
彩美「……別れたいです」
尚也「うん」
彩美「尚也は来月には東京の音大に行きますよね」
尚也「うん」
彩美「私は、来年卒業しても東京には行きません」
尚也「うん」
彩美「だから」
尚也「うん、わかった」
眼を合わせる、尚也と彩美。
彩美、恨めしそうに見つめて
彩美「本当に私のこと好きだったんですか。あっさりし過ぎてて傷つくんですけど」
尚也、彩美の頭を撫でて
尚也「好きじゃなかったら一年も付き合わないよ。好きだったよ、ちゃんと」
彩美、疑い深い眼。
尚也「本当だって。でも遠距離恋愛って僕たちには無理かなって思ってたから」
彩美、顔を背けて
彩美「……何か吹いてください」
尚也「いいよ、何がいい?」
尚也、トランペットケースから楽器を取り出す。
彩美「私しか、知らない曲」
尚也「わかった」
尚也、トランペットを吹く。涙を隠れて拭く彩美。
尚也、それを横目で見ながらも旋律を奏でている。
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