第3話

〇同・施設内

 テナント店が並び、多くの人が行き交っている。その中を一人、歩いている羽岸春 

 一(32)。周りを観察するように見ている。

 遠目に床の清掃をしている千鳥の姿を見つける羽岸。

 千鳥、お客さんに声をかけられ、道を丁寧に教えている様子。

 その近くに迷子らしき子どもが泣きそうになって一人で立っている。誰もが素通り

 していくなか、羽岸が駆けつけようとするが、先に千鳥が子どものそばに向かう。

 子どもと目線を合わせて話す千鳥。

 羽岸、その様子を見つめている。


羽岸「……」


 そこで羽岸の後ろから小走りでやってくる時東世菜(28)。


世菜「春、勝手に出歩かないでって言ったでしょ」


 羽岸、子どもと話している千鳥を見つめている。子どもは安心したように笑っ

 ている。


世菜「春?」


羽岸「あの清掃員、応接室に呼んでくれ。あと履歴書も」


 踵を返す羽岸。


世菜「ちょっ、春?」


 世菜、不満そうに千鳥を見つめる。


〇同・応接室

  岸、ソファーに座り千鳥の履歴書を見ている。その後ろで世菜が不満そうに立っ

  ている。

  扉がノックされる。


世菜「どうぞ」


千鳥の声「失礼します」


 怖ず怖ずと入ってくる清掃姿の千鳥。


千鳥「……あのご用、とは?」


世菜「あなた、人と話すときもマスクをするのかしら」


 千鳥、渋々マスクを外す。

 世菜、千鳥の傷を見て顔をしかめる。


羽岸「海島千鳥さん。調べたけど東大主席卒業だそうだね」


千鳥「……留年はしています」


羽岸「それはやむを得ない事情があったからだろう」


 羽岸、千鳥を見つめている。

 千鳥、羽岸が顔の傷ではなくちゃんと眼を見て話していることに気が付く。


羽岸「まぁ学歴の一行なんてどうでもいいんだけどね。僕はここを経営している羽岸春一だ。これからここのような商業施設をもっと大きく展開しようと思っている」


千鳥「……はぁ」


羽岸「君にそれを手伝ってほしい。僕の右腕としてね。あと、そのマスクも禁止だ」


千鳥「はぁ……は?」


 羽岸、満面の笑みで


羽岸「隠す必要はない。明日から頼むよ」

 

 絶句している千鳥。

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フェイス・スタート(短編) KH @haruhira

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