第2話彼女の名前は

 あれから三日が過ぎた、ショックのせいで食欲も失せ睡眠不足になり。立ち直れなかった、今は仕事も休んでいる……夫の優しい言葉も今の私には届かない。幽鬼に犯されそうになった事。

 そして何より、そんな悍ましい物から、快楽を感じてしまった自分に嫌悪感を抱く。その度に吐いてしまっている。その都度自分の身体を一人で慰めていた。もう暫くの間、レスだった。

 今は家に一人だ、娘は元気に学校へ行き夫は、会社に行っている。

 何もする気が起きない、家事は夫が行ってくれている。申し訳ない気持ちで更に心が疲弊して行く。

 インターホンがなった、無視する、再度なる、無視をする。それでも鳴り止まない、うるさい! モニタを見る、鷲尾さんだった他にもう一人いる。外で騒いでいる、無視をする。誰とも逢いたくない外にも出たくない。リビングの窓の前に誰かの影が見える、警察が不法侵入? ふざけないでよもう! 鬱ぎ込んで居ると窓ガラスが割れた。



◇ ◇ ◇


 「オジサンさんさ〜今日も来ないじゃん、自殺してんじゃないの?」

「そうは言うがな、お前女だろ! 少しは気持ちが分からんのか!?」

「まぁ分かるけどね、でもさ〜実際には犯された訳でもないじゃん。アタシが助けたし!」

警察署のロビーで名前も名乗らない娘と、京子ちゃんが来るのを待って三日が過ぎていた。

「お前は! 自分がそうなったらどうすんだ!」

「どうかな〜アタシさ結構小心者何だ、だから油断だけはしない。これ見てみ!」

そう言って、この娘は穂先に白い布を巻いた槍を見せる。

「お前が普段から持ち歩いてんのは、そういう事か?」

「そうだね、ここ三日でもう何匹倒したかわかんね〜や」

「って事は、増えてるって事か?」

「オジサンさんさ〜本当に油断しすぎ、ここ何日か被害報告少ないでしょ?」

「お前まさか!」

「アタリ〜って言ってもさ、そろそろ限界な訳よ」

「だからさ〜いい加減に手が足りないの分かる?」

「ちょっとで良いからさ〜塚田さんの様子見に行ってみね?」

確かにコイツの言う事も分かる。巻き込んでしまったのは俺だ行ってみるか? 職場にもあれから今日まで休み続けてるらしい。

「様子を窺うだけだぞ! 良いな!」

「りょーかい」

表に出る、少し曇っているな

「おい! 乗ってくか?」

「あ〜良いよアタシ、バイクで行くから、大体槍が乗らないでしょうが」

「じゃあしっかり付いてこい!」

車を、走らせる。後ろからアイツは付いてくるのだが、いかんせん目立ちすぎる。昭和の暴走族か? 少しスピードを上げて向かって行った。


 塚田邸は、住宅街の一軒家だ。ガレージ付きとは豪勢な家だ。アイツが追い付いてきた。

「ちょっと速すぎんだよオッサン! まだ寒いってのに」

「悪い悪い」

「ぜって〜思ってねぇな!」

「ここだ」

「豪華だねぇ〜アタシのボロアパートが更にぼろくみえるよ」

俺は、インターホンを鳴らす……出ない。もう一度鳴らす……出ない

諦めて帰ろうとしたら、コイツ! インターホンを連射してやがる。

「『いる』ね、この家に」

「オッサン! ちょっと乱暴に行くよ! フォロー宜しく!」

「あ〜後で呼ぶから、それまで絶対に近づかないでよ!」

「おっおう!」

そう言うとコイツは、庭へと飛び込んで行った。


◆ ◆ ◆


 全く世話の焼けるオトナだ。明らかにこの家の空気がおかしい、もう取り憑かれているね。確かあの人は、結界を張れる人間の筈だ。自分の家には張っていない筈がない。家に手を当て、結界が張られていることを確認する。窓を覗く、あ〜あ言わんこっちゃないバッチリ憑かれている。幽鬼の催淫作用の類か、本当に変な霊が増えたなこの街。神様どうなってんの?

 まどろっこしいのは嫌なんでね、当たりを注意深く観察して見る。今の時間そんなに強い霊は感じられない。覚悟を決めてリビングの窓をブチ破る。

「おっじゃましまーーーすっ!!」

 そのまま驚いている彼女の、喉元目がけて槍を突き刺す。突き刺しているのは、彼女では無い。彼女に取り憑いているものを刺した。この槍では、人に取り憑いたモノを貫く力がある。勿論普通に人を刺すことも出来るが、この槍本来の使い道はこうだ。

 取り憑いていた霊は、人の心のヤミに潜むそれを穿く。彼女自身でも理解していなかったろう、取り憑かれた事を。霊の最後の咆哮を聞き槍を抜く、槍から白い布が滑り落ちていく。

「今のは?」

「オネーサン油断しすぎ。あの日言ったよねアタシ! 気にするなって!」

「今の奴は、オネーサンの心の隙間で、恐らく息を潜めていたんだよ」

「多分あの日、幽鬼の一体がオネーサンの身体に入り込んだんじゃないかな? だから普段とは違う感じで、感じちゃったんじゃないの?」

「一応飲ませておいたんだけどね、オネーサンの身体に瘴気が残らないように、悪い! まだまだ修行不足だアタシも油断しすぎ」

「大丈夫だった? この三日間相当溜まってたんじゃない?」

彼女は泣きながら答えた。

「もう……どれだけ一人で喘ぎ続けていたか! 私はいつ幽鬼に犯されて良いって思って……だって夫とはもう何年も……」

そんな彼女に霊水をぶっ掛けた

「おーい! いい加減に目を覚ませ!」

「何てことするのよ」

「いやぁ、あんまりウジウジしてるからつい」

「やって良いことと悪いことがあるでしょう!?」

もう少しかな?

「嫌だってさ〜アタシ言ったよね、気にすんなって」

「オネーサン意外と打たれ弱いのかなぁ?」

「貴女に何がわかるのよ! どれほど幽鬼に犯されたかったか! どれほど毎晩毎晩我慢してたか!」

「じゃあ今は〜?」

「えっ!?」

ほくそ笑む

「もうそんな気ないんじゃないかな〜?」

「オネーサンに取り憑いた幽鬼が、心を淫らにさせていたんだね〜あっもしかして身体もかも?」

「ちょっと失礼!」

抵抗するが抑え込みそこを弄る

「あっちょっと!どこにっんあんっ」

「ほらほらどんどん出してみ?」

「わっわたし……はっあっんん〜〜そんなことで……」

「まぁ良いから良いから、ここは女同士気にせずに!」

指先に霊力を込める

「いっいやぁああ!はぁんんっ」

アタシはもう指動かしてないんだけど……彼女は無自覚のうちに、自ら動かしていた。

「ッ〜〜んん〜〜〜あっ! あああ!」

弓なりに仰け反る、耳元で囁く

「イッちゃいなよ」

耳朶を甘噛すると、ガクガクと身体を壊れるほど震わせて失禁して果てた。

「溜まりもたまり三日分ねぇ」

まっ本当は、旦那さんとやる事やっててくれてりゃそれで済んだのに。無理して抗い続けるからよ。これで大人しくなってくれるといいけど。もう幽鬼は取り憑いていない、あっ! 忘れてた

「オッサン! 悪いけどもう少し待機だ!」

「なんかあったのか!」

「あったけど〜! 後始末があるからさ! 車で待ってて!」

「おう!」

流石にこの惨状は見せられないわ……さてどうしよう? 正直、力技で捻じ伏せたような物だ。まぁアタシに怒り向かってくる位には、なってくれるといいんだけど。

 

 昔聞いた言葉だ、『誰かを憎んで行く事で生きていける人もいる』

 

 取り敢えず濡れた物を脱がし、勝手にバスタオルと子供用の毛布があったので掛けておいた。二十分程で意識を取り戻した

「おっはよ〜」

「貴女は……わっわたしの下着が……さっきの事は夢……」

「なわけないでしょうが! オネーサンはアタシの華麗な指使いで、派手にぶっ飛んだわよ」

「なっ!?」

腰にバスタオルを巻いたまま。アタシの頬目掛けて手を振り上げる。ビンタねぇ、軽くいなす。

「どう? 元気出た? オネーサン」

「へっ部屋を片付けます、あっ貴女のせいでもあるんですよ! 手伝いなさい!」

「オッケー! 任せて」

 一端塚田さんは着替えに行き。その間に割れたガラス片を集める、塚田さんが戻って来て二人で掃除を進める。

「あのさ〜オネーサン? 外でオッサン待たせてんのよ呼んでいい?」

「へっ!? 鷲尾さんが」

「うん、ずっと待ってる。どうする?」

「わかったわ、呼んできて。くれぐれもさっきの事は」

「別に言わないよ、そんなにビクビクしない! ビクンビクンはしてたけどね派手に!」

「ふざけてないでさっさと呼ぶ!」

顔を真っ赤にして叫ぶ、大丈夫そうだね、オッサン呼ぶか!


 「おーいオッサンもう良いよ、はやくきな」

「随分待たせやがって」

「まぁまぁ、女には支度する時間が必要だよ?」

「オッサン子供いんの?」

「おう、一人息子がいるがどうかしたか?」

「くれぐれも巻き込まない様にしなよ……」

「わかってるよ!」

塚田家へと入っていく、案内された場所は座敷の間だった。

「京子ちゃんもう良いのかい?」

「えっええ! 元気です!」

声が上擦っている

「良かった!」

オッサンの目にも涙ってか?

「さて、それよりも貴女は一体何者なの?」

「そうだぜ揃ったら話す約束だったな?」


アタシいや私は胡座から、二人が正面に見える場所で正座する


「お久しぶりです塚田さん鷲尾さん」


と言い頭を下げる。

「何処かでお会いしましたか?」

「俺は、職業がら大体は覚えているけどよ。お前とは……」


「私の名前は『渡辺茉希』五年前貴方達、いえ八神さんに助けられた者です」


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