市霊狩り

肉まん

第1話あれから五年

 「鷲尾さん!そっちに逃げました」

私は取り逃がした事を連絡する

「おいおい京子ちゃんさぁ、俺もう歳なんだぜ?」

「弱音を吐かない!」

「厳しいねぇ! オラよ!」

鷲尾さんの拳で最後の『それ』を叩き潰す

「今ので最後かい?」

「多分」

「一体どうなってんだ?ここんとこほぼ毎日じゃねぇか」


 『彼』が五泉市から『呪い』を消し去ってもう5年が過ぎて、全てが終わり。平穏な日々が続いていた。だが、今年の3月から異常な事件が起きていた。強姦、犯人の居ない殺人事件、警察もお手上げだった。

 そんなある日、刑事の鷲尾さんが訪ねてきた。何でも強姦の犯行現場で、昔話で聞く幽霊が居たらしい。見えていたのは、鷲尾さんだけだったらしく。その場で自らの拳で叩き潰したそうだ。鷲尾さんには『なにか』を叩き潰す力を持つ。私にも力がある『なにか』を私が作り出す結界で封じ浄化して消滅させる。そう鷲尾さんと私には『なにか』が見える、5年前の『呪い』に直接関わった私達と一部の力を持つ人。私達はその幽霊を幽鬼と名付けた。だが実際に動けるのは私と鷲尾さんの二人。今日も幽鬼を退治していた。

 「一体何なんだろうな、若い女は強姦され男は殺される。京子ちゃんも気を付けな」

「じゃあ巻き込まないで欲しかったのですが……」

まあ私はもう若くない、だからこそ私の所へ来たのだろう。ある意味腹が立つ、もし『彼』だったら引っ叩く所だ。

「被害者の『若い』女性被害者の年代は?」

「概ね18〜30歳と意外と幅広いんだよ、京子ちゃん今いくつだっけ?」

「今年で27になります」

「まぁ、付き合わせて悪いと思っている。だけどよ、他に頼れる『やつ』が居ないんだよ」

鷲尾さんも『彼』の事を引きずっている、私だって引きずっている。今居てくれたなら、どれ程頼もしいか。居なくなってから分かるその存在を。しかし今はもう、私達だけで究明しなければならない。この事件を、しかし

何も進展がなく。現れては退治する事の繰り返しだけで手が一杯だった。それは仕方ない、幽鬼と渡り合えるのが、私達二人だけしか居ない。何かしら逆転の手立てを考えなければならない。相手の目的だけでも分かれば……

 私は、この市のただの市役所職員に過ぎない。それでもこの力があるという理由と、5年前の事件に関わっていた事により。今回の件に駆り出された、今私の生活は昼夜逆転している。家族も理解してくれている。ありがたい事だ、だからこそ早く終わらせたい。焦るばかりだ……ヒエ様、ヤエ様どうかお力をお貸しください。

 何度目かの夜警を鷲尾さんとしている時だった。

「本当に理由が分からんのがなぁ」

「一連の事件で関連性は今の所分かりませんね」

「まったくよ嫌んなるぜ、まあ幽鬼が出たら取り押さえて尋問! って訳にはいかんしな」

「そもそも対話が出来るのでしょうか……」

突然男の悲鳴が聞こえた、本町の裏路地の飲み屋街の方向からだった。

「急ぐぜ!」

「はい!」

車を走らせる。

 数分後現場には、二人の男の死体があった。身体を袈裟斬りに切り裂かれている。まだこの近くに幽鬼が居る可能性がある、二人で出方を窺う。後ろの二体の死体が、突然立ち上がり私達に襲い掛かってきた。取り憑いて動かしている?

「鷲尾さんその二人を取り押さえて下さい!」

私はポケットの中から、五円玉を三つ取り出して準備を整える。鷲尾さんが意図を察してくれたのか、広い道路迄、二体の死体を引っ張り出してきた。既に二個はセット済みだ。後は鷲尾さんが、其処まで運んでくれれば最後の一個を置くことで結界が完成する。

 

 油断したつもりは無かった。だが突然路地裏へと引き込まれる。幽鬼が五体もいる、口と四肢を押さえ付けられる。声が出せない! いけないこのままだと! スーツを下着ごと引き裂かれた。胸が露わになる、抵抗するが押さえつけられていて動けない。幽鬼が満足そうに胸を擦る。それだけで今迄感じた事のない、抗いがたい快楽を感じる。身体がゾクリとする、幽鬼は丹念に胸をもて遊び胸の先端に噛みつく。甘い声が出かけるが唇をかみしめて堪えた。鷲尾さんの声が聞こえるが声が出せない、もがけばもがくほど。無数の手で押さえ付けられる、下卑た笑いを浮かべ下のスーツを無理矢理剥ぎ取られる。ストッキングも引き裂かれ、下着も剥ぎ足られる。脚を広げられた。悔しさで涙が溢れていく。

 「何やってるのよオバサン、そんなのとヤリたい訳? 正気?」

水をかけられる、私を抑えていた幽鬼達が絶叫をあげ消滅していく、私は拘束から解き放たれる。

 そんな私は、そんな女じゃない。幽鬼に弄ばれた事に涙がこぼれた。

「まぁ犯されて壊れる寄りましね、さっさとコイツら片付けるから。ちょっと待っててね」

 そう言うやいなや、槍のようなもので幽鬼達を切り裂いていく。一切の迷いもない動きで、また一つまた一つと切り裂いていく。最後の一体を切り捨てる。

 「オッサンこっち来んなよ!?」

「無事か!?」

「まあ無事と言えば無事何だろうけどさ。とにかくコッチ来んなよ!」

 「寄越すなら女性警官をお願い!」

そう言うと、彼女が着ていた服を脱ぎ始めて。私に投げて寄越す。

「サイズ合わなくても別に良いでしょ。その格好より」

受け取った服を着る。彼女は下着姿だが、堂々と立っている。

「貴女は?」

「そんな事より、オバサン流されすぎ。帰ったらさっさとシャワーでも浴びて寝な」

無性に身体が震えている。悔しくて涙が止まらない。

「冷静になったらちゃんと話すから」

女性警官がやってくる、彼女の下着姿に驚いていたが。彼女が冷静に状況を、女性警官に報告してくれた。

「だからアタシとこの人家まで送ってくれないかな?」

「では調書は、後日警察署で」

「そうしてくれる?ああ担当は鷲尾刑事でよろしく!」

「はぁ?」

「早く車お願い、先に彼女を家に送って上げて」

「大丈夫かい? 立てる?」

「ええ大丈夫です」

冷静ではなかったが返事をする。

「まっ力がある事が逆に作用したようだね、普通の女じゃ。幽鬼を見ただけで震え上がって声も出せないのに」

「当たり前のように、幽鬼を見ていたからこそ簡単に飲み込まれてつけこまれたのよ」

「油断しすぎオバサン」

反論できない、いとも簡単に嬲られ掛けてしまった自分が情けない。

「はいはい、もう終わった事だよ。ほら車が来たよ」

「ほら帰ろう?」

彼女に手を引かれて車に乗った

「貴女その姿で平気なの?」

「別に? 気にしたこと無いから、服を着てなきゃオバサン全裸だったでしょ?」

「ありがとう」

名も知らない彼女に例を言う

「お巡りさんアタシの『槍』は丁重に扱ってよ!」

「長くて載らないのよ」

「じゃあ良いわよ、こうするから」

彼女は車の窓を開けて、腕だけ出して槍を持った

「これなら良いでしょ?」

「良くありません!」

「いやこの娘の言うとおりにしてやってくれ」

鷲尾さんが女性警官を説得させた。

「京子ちゃんよ、無理かもしれないが。署に顔が出せるようなら、来てくれ」

そこまで言うと

「車を出してくれ」

女性警官に命じた、走り出す車の中で。彼女は

「まっ気にするなって、これ飲みな」

そう言って、私に飲み物を差し出す。黙って受け取り飲み干す。身体がほんのり光る

「瘴気は消えたね。まっ取り敢えず良かったじゃん、運が良かったね。間違い無く犯されていたよ」

何者だろう彼女は?暗くて顔がよく見えない

「貴女は誰?」

「アタシか? もし明日、警察署に来れたら教えてあげるよ」

「オバサンにそんな元気があるならだけど」

「そう……」



◇ ◇ ◇


 数刻前

 

 何で死体が動きやがるんだ。しかも力も強い! 京子ちゃんが結界を張れる場所までコイツら二人は厳しいか!? 血飛沫を飛び散らせながら向かってくる。どんなに殴っても向かってくる、きりがない俺の力で幽鬼を殴る事はできても、今は取り憑かれた死体を撲ってるだけに過ぎない。だからこそ京子ちゃんとの連携が不可欠だった。彼女の結界で幽鬼を死体から切り離す、それを耐えたものを俺が叩き潰す。今迄そうして来た。

 広い所まで誘い出すことができた、後はいつもの様に京子ちゃんが結界を張って……こない、さっき迄姿は見えていたのに! 不味い! しかし二つの死体が絡んで来る。コイツらの相手はしていられない。気が焦る、不味い早く探さないと! だが死体に足を掴まれ転び、そこに更にもう一体が覆い被さってくる。その時、死体の後ろに人影が見えた。その人物は、手に持った槍のような物で死体の首を切り払った。首からおびただしい程の血が流れ出ている、死体は動かなくなった。

 その事を確認すると、もう一体の腹を貫き通す。死体の中から臓物が飛び出し動かなくなった。

「オジサン油断しすぎ、これでも飲んで身を清めてなよ」

飲み物が入っている容器を渡される。

「そんな事よりもう一人いるんだ! 助けに行かんと!」

「連れって?」

「女だ」

「全く二人とも油断しすぎ」

「アタシが探す、オジサンはさっさと応援要請して。あと女性警官が良い、終わったら呼ぶから」

そう言うと娘が槍を死体から抜き、構えながら歩きだす。不思議な事に槍の穂には、血糊がついていなかった。それどころか蒼く光っている。そのまま暗い路地裏へと消えって行った


◇ ◇ ◇


 パトカーが私の家へと着く、もう深夜の一時を過ぎていた。

彼女に改めて礼を言う。彼女はウンザリとした様子で

「はいはい分かった分かった」

とだけ言い残しパトカーと共に去っていった。

 悔しかった、自分が犯されかけていた事に完全に油断しすぎていた。

これまで何体もの幽鬼を倒して来た……それがこのざま……家に入り熱いシャワーを浴びた。少しでも身体に纏わりついた感触を無くす為に、良く洗い流してから浴槽に浸かる。

 ふと5年前の事を思い出す、彼は何時も一人で行動していた、私達にはついてくるなと。今更気付く、呪いとか関係無くこうなる事を恐れていたのだろう。今彼に会えるなら謝りたい。リビングへと戻ると熱いお茶を飲み、寝室へと向かう、夫と娘が眠っている。私は娘の隣に潜り込み眠りについた。


 

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