第4節
合唱コンクールを前にして、個別で扱かれる事が確定した宇橋静姫。
隆静「はぁ〜・・・。」ドンヨリ
部活を終えての帰路。勿論、気分は憂鬱だ。
隆静「うわっ、最悪やん。御堂筋線運転見合わせとか・・・。クソがよ。」
それに追い討ちをかけるような、通学電車の不通。厄日ってのは、こういう日の事を言うのだろう。
隆静「えー、堺筋線は・・・うん。大丈夫だな。よし、南海で帰るか。」
乗り換え回数も運賃も高額になるのは億劫だが、背に腹は代えられない。
隆静「・・・と、なると、中百舌鳥駅よりも白鷺駅から乗った方が良いな。」
俺は普段、中等部校舎に近い第二校門から登下校している。なかもず駅からはこちらの方が近い。一方で、南海高野線で通学している人は正門を通って白鷺駅から帰る。学年の半数以上が後者に該当している。
省鑼「・・・ん?あれ?宇橋さん?」
俺以外の前者に該当する人を一人発見。眼鏡と三つ編み、投堂さんだ。多少遠くでも、声が小さくても分かる。
静姫「あ、投堂さんも今から帰り?今日は部活、休みじゃなかったっけ?」
省鑼「うん。宇橋さん達が部活に行ったあと、あのまま一人で合唱曲のピアノ練習してた。ピアノしてるとさ、やめ時が分からなくなっちゃうんだよね、私。」
静姫「も、物凄い集中力だね・・・。」
この集中力を以て、来週から扱かれると思うとゾッとする。
省鑼「あはは・・・。家に帰ってからやると時間を忘れて無尽蔵に弾いてそうだから、敢えて学校でやってたの。制服がストッパーの役割を担ってくれてるのよねー。」
静姫「微笑みながら言う事じゃないよそれ!?身体は大事にしてね!?」
省鑼「流石に家で弾いてても徹夜にはならないわよ。休みの日のお昼御飯を忘れる事は偶にあるけど(笑)」
静姫「ほーらやっぱり!!!」
そんな雑談をしながら、白鷺駅へと歩みを進め、電車の到着を待つ。改めて気付いたが、投堂さんって相当変わってるな。まぁ、俺が言えた口ではないが。
静姫「・・・あれ?投堂さん、鞄から何かズリ落ちてるよ?」
省鑼「え?あ、本当だ。リコーダーが落ちそうになってる。」
静姫「リコーダー?リコーダー持ち歩いてるの?」
しかも、なにやら高そうなケースに入ってる様に見受けられる。
省鑼「うん。このリコーダーはね、宝物なんだ。」
静姫「誰かから貰ったりとかした感じ?」
省鑼「パパだよ。」
静姫「あっ・・・・・・。」
【父親】。俺には少し耳の痛い言葉だった。
省鑼「小学生の時、パパに買ってもらったの。パパはヴァイオリニストでね、アメリカに住んでるの。年に20日位しか大阪に帰ってこないから、会える時にはこうやって贈り物をくれるの。中でもこのリコーダーは一番のお気に入りなんだ。」
静姫「そ、そうなんだ。普段はお母さんと2人で住んでいるの?」
省鑼「私とママとじいじとばあばの4人で暮らしてるよ。晩御飯を作る担当を毎日交代してたり、大変な事もあるけど、楽しいよ。」
静姫「・・・。」ズキッ
俺の母さんは親戚と完全に絶縁しており、親戚付き合いというものが無かった。面倒臭い部分があるのは重々承知ではあるが、やはり嫉妬の対象になってしまう。別に母さんが悪いわけではない。俺が醜い嫉妬さえしなければ良いだけの話だ。そう、俺が・・・。
省鑼「宇橋さん、どうしたの?スカートの裾を掴んで、深刻そうな顔してるけど、どこか体調が悪いの?」
静姫「えっ!?私、そんな怪訝な顔してた!?」
省鑼「うん。してた。」
まさか表情や行動に出る程だとは。これは末期だ。やはり打ち明けた方が気が楽になるだろうか。でも投堂さんはどう思うのか。
静姫「・・・あのね、投堂さん。少し暗い話になるけど良い?」
省鑼「え?べ、別に私の事は気にしないで。私も宇橋さんが帰り道に話しかけてくれたおかげで友達を作れる様になったし、困ってる事があるなら、可能な限り相談に乗るよ。」
俺はそこ迄の事をした覚えはないが、感謝してくれてるのならその言葉は受け取ろう。
静姫「私ね、婚外子なの。だから父さんがどんな人なのか、全然分からなくてさ・・・。」
省鑼「・・・・・・えっ。」
この時の投堂さんが俺に向けた視線は、果たしてどの様な意味をもつのだろうか。考えたくもなかった。
〜メルティッド・チョコレート〜
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