第3域 性差と声、切り離せない関係。
第1節
2023年4月14日、午後14時半。
週末のロングホームルームの時間、これから辻錦学園の春の恒例行事に向けた準備が始まる。
陶次郎「今回のホームルームでは、合唱コンクールの曲目を決めようと思いまーす。」
学級委員である舶の口から発せられた言葉。そう、合唱コンクールだ。この学校で唯一、中等部と高等部が別々に行う行事であり、高等部の生徒達が最も力を入れる行事なのだ。
生徒A「みんなも知ってるJ-POPで良いんちゃう?」
生徒B「いや、ここはガチの合唱曲で学年トップ狙うべきやろ?」
ガヤガヤ・・・。
茅並「おいおいおい。ホームルームの時間のうちに終わらせる気あんのかー?多数決でもなんでも良いから、せめて曲くらいは決めなー。」
手を叩きながらやる気ない声を発するのは、我がクラスの担任である軍野茅並(グンノチナミ)先生だ。基本的に気怠けだが、授業(担当教科は化学)や部活指導(吹奏楽部の副顧問)の評判はかなり良く、【グンチナちゃん】と呼ばれている。因みに俺や舶は、2年連続でグンチナちゃんが担任だ。
陶次郎「・・・という感じに軍野先生もご立腹なので、早めに決めんぞー。」
茅並「だぁれがご立腹じゃアホンダラ!」
教室に笑いが起こる。これが日常茶飯事だ。
隆静(・・・やっぱり今年もグンチナちゃんの担任で良かったなー。)
そう思う俺だったが、他の生徒とは多分ちょっと意味が違う。なぜならグンチナちゃんは、理事長を除いた教職員で唯一、俺が性転換症である事を知っているからだ。俺としては大助かりである。
茅並「おい宇橋、ちゃんと議論に参加してるか?」
静姫「ふへっ!?」ビクッ
その反動か否かは定かではないが、俺に厳しめなのだ。妥協が嫌いなグンチナちゃんらしいといえばらしい。尤も、前の方の席でボーッとしてた俺が100%悪いのだが。
静姫「え、えーっと、例えばディズニーの曲とかはどうかな?ミュージカル調で、盛り上がりそうだし。」アセアセ
生徒達「・・・・・・。」
陶次郎「・・・・・・。」
茅並「・・・・・・。」
静姫「えっ、なんで皆黙るの!?せめて何か言ってよ!?」
本当に、世間は優しくない。
そんなこんなで曲目は決まった。有名なミュージカルの挿入曲だ。因みにディズニーではない。
陶次郎「んじゃ次は、指揮者と伴奏者を誰にするか決めないとだな。希望者いる?」
隆静(まぁ、俺からすると曲以上に大事なのはこっちなんだよなぁ・・・。)
そう。性別が変わった事による声の変化に慣れてない俺にとって、人前で歌うのは未だに苦痛なのだ。いい加減克服しないといけないのは重々承知なのだが、口で言うほど楽でもない。
陶次郎「ん?宇橋ちゃん、今年は伴奏やらないのか?」
事情を知っている舶が声をかけてきた。去年は伴奏をやる事で歌うのを回避出来た。小学生時代に放課後児童クラブで延々と弾き続けてた事がまさかの形で役立ったのだ。
静姫「いや、今年は大本命がいるからさ・・・。私は遠慮しとくよ。」
陶次郎「そうか?お前が良いならこれ以上おれは何も言わんが。」
今年のクラスには小学生時代に近畿のピアノコンクールで優勝した事がある投堂省鑼(トウドウセイラ)さんというガチめのピアニストがいるので、譲らざるを得ない状況である。
陶次郎「・・・まぁこんな感じで誰も立候補がいないので、おれが推薦するよ。投堂さん、やれるかな?」
省鑼「あっ、はい・・・。大丈夫です・・・。」
このおとなしそうな眼鏡少女が投堂さんである。普段は見た目通りの物静かな性格だが、ピアノの前に座ると豹変するタイプだ。
男子生徒「はい、拍手ー!」
なんで俺が投堂さんに詳しいか、って?実は投堂さんも俺と同じく京阪沿線(投堂さんの最寄りは森小路駅)から通っているため、別のクラスだった去年から、帰り道で一緒になったら話をしていた仲なのだ。その関係で、何度かピアノの演奏を聞かせてもらったこともある。だから俺は実力を知っていた。だから譲らざるを得なかった。
陶次郎「じゃあ次は指揮者を・・・。」
ドォン!!!!!!
隣の教室から机を叩く音がした。
静姫「え?何の音!?」ビクッ
俺の高校生活は、前途多難だ。
〜メルティッド・チョコレート〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます