第0話 平穏とは万事壊れるもの。

プロローグ




【平穏】が欲しかった。ただ、それだけだった。

それを望むのは、罪ではなかろう。

なのに何故、俺の目の前からはすぐにいなくなってしまうのだろうか。




夜の街で働いていた母さんは、未婚で俺を産んだ。今思えばそのせいだからだろう。幼少期は周りから疎まれていた。


ところが俺が7歳の時、母さんは一軒家を買って引っ越した。あまりにも突然だった。

俺は幼いながらも、引っ越した先で【平穏】が手に入ると思っていた。

そしてその【平穏】に、俺は確かに触れていた。




あれは引っ越して来て数ヶ月後、小3に進級してすぐの事だった。

公園でゲームをしていると、目の前でイジメが勃発していた。眼鏡をかけた少年がイジメられていた。

ゲームに集中したかった俺は、ただ単純に目障りだったので、イジメている方を睨んだ。


???「おい、そんな事して楽しいか?邪魔だからとっとと失せろ。」


ガタイは良いクセにたったこれだけで怯んだイジメっ子は、速攻で退散した。


???「・・・ったく。」


俺は中断していたゲームを再開しようとした。


????「あっ・・・あのっ!さっきはありがとうございました!」


しかしイジメられていた少年がお辞儀付きで丁寧に挨拶されたら話は変わる。


???「別に俺、何もしてねーぞ?」


陽三「な、なら、せめて名前だけでも教えて下さい!あっ、僕は嶺浦小の2年1組、宙谷陽三です。」


何か論理が飛躍してる気がしたが、別に隠す必要性も無いし、答えた。


隆静「・・・嶺浦小3年5組、宇橋隆静。」


陽三「あっ、上級生なんですね。僕、兄に憧れてて、良かったら【りゅーにぃ】って呼んでいいですか?」


急にフレンドリーになったな!?でもまぁ、悪い気はしないけど。


隆静「じゃあそうしてくれ。俺はそろそろ帰るよ。また会えたら良いな、陽三くん。」


陽三「はいっ!」


そうは言ったものの、学年も違うし、多分もう会えないと思っていた。しかしその予想は良い意味で裏切られた。なんと家が隣同士だったのだ。

これが陽三くんとの出会いだった。




そこからの俺の人生は【平穏】そのものだった。

勉強・部活・遊びと、目立ちはしなかったが、何不自由無く過ごしていた。そして中3の初め頃には彼女も出来た。受験勉強はキツかったけど、第一志望の高校にも合格出来た。こんな日常が永遠に続くと思っていた、卒業間近の時だった。




俺の【平穏】な日常は、思わぬ形で、再び壊されてしまった。




〜メルティッド・チョコレート〜

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