第530話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン地下二十階の温泉へ

 サツキが階全体が凍ればいいと思いながら唱えた上級魔法のアンファンフロストは、サツキの希望通りとはいかなかったが、それでもかなりの広範囲を凍りつかせた。


 少し寒くなったのだろう、ウルスラが上を羽織ながら感想を述べた。


「凄い効果ねサツキ! 敵一匹いなくなっちゃったわよ!」


 すると、アールが壁の端の方に凍りついている塊を見つけ、駆け寄って行く。ぱあっと笑顔になると、塊を軽々と持ち上げた。


「これ、火蜥蜴だぞ!」

「え!? やった! 夜ご飯ゲット!」


 ウルスラが飛び跳ねた。アールは凍った火蜥蜴を剣で輪切りにしていくと、待ち受けていたユラの鞄に放り込んだ。


「朝飯分には少し足りないか?」

「もうちょっと行ったらまた凍ってるんじゃないかしら?」

「よーし! 皆地面をよく見ながら進むぞ!」


 一行が地面に注意を払いながら進んで行くと、早速ウルスラが発見したようだ。


「お宝ゲットー!!」


 ウルスラが手に取ったのは、赤い大きな鱗の様な物だった。ユラがそれを手に取り、翳したりして確認した後ウルスラに戻す。


「火蜥蜴の鱗だな。粉にして香辛料として使える」

「香辛料?」

「激辛な中に旨味があって、なかなかいいぞ。そこまで流通してないから、高級料理店とかに売るとがっぽり儲かる」


 ユラが言うと、ウルスラが地面に注意を向けながらもユラに注意した。


「ユラ、ギルドを介さない売買は禁止でしょ。見つかったら罰金よ」

「分かってるけどさ、二割持っていかれるのはでかいなって思わねえ?」

「運営費用に必要なんでしょ」

「そりゃまあ分かるけどさ」


 成程、ギルドは販売価格の二割を仲介料として徴収するのか。そこそこいい商売の様だが、依頼の報酬は完遂後、お宝の売却費用は売却時にようやく入手できる。依頼が成功しなかったり、売れるようなお宝がない場合、現金は入手出来ない仕組みになっていると考えると、ニ割はまだ良心的な方なのかもしれなかった。


 ギルドが潰れたら、依頼もないし報酬もない。冒険者だって困るに違いない。


「ユラ、そういうのって、回り回って自分の首を絞めることになるんだよ」

「お前ってやっぱり時折サラッと怖いこと言うよな」

「私の世界に『情けは人の為ならず』って言葉があってね、人に情けをかけると、回り回って自分に戻ってくるっていう意味なんだけど」

「お前の世界って的確な言葉がよくあるんだな」


 ユラが関心した様に言った。取らぬ狸の皮算用のことを思い出したのだろうか。


「だから人に悪さをすると、回り回ってそれも自分に返ってくるってことね」

「だから怖いって」


 ユラがそう言って笑う。こういう何気ない会話も、もうすっかり慣れた。悪意や他意のない人間との会話だからか、サツキがユラを好きだからかは分からないが、もう構えずに会話をすることが出来る様になった。これも皆パーティーメンバーのお陰だ。


 地面が凍りついていると炎系のモンスターは弱るのか、遠くの方でよろよろと歩いているフレイムボアを見かけたが、こちらには近付いて来なかった。


 凍ったフレイムボアも見つけたところで、地下二十階へと続く階段まで辿り着いた一行は、安全な階とは分かっているものの、念の為注意を払いながら一段一段降りて行ったのだった。

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