第531話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略三日目のカウントダウン

 結局リアムもまた寝てしまい、目覚ましの音ではっと目を覚ますと、祐介の顔が自分の胸に思い切り埋もれているのに気が付いた。これは祐介の所為ではなく、がっつりと祐介の頭を抱え込んだリアムの所為だろう。


 息は出来ているだろうか。リアムは殺人者にはなりたくはない。そうっと祐介から身体を離すと、祐介の頬に痕が付いてしまっているのを見つけてしまった。押し付け過ぎたらしい。自分が何を思ってそんなにぐりぐりと胸を押し付けたかは謎であるが、これ程に痕が付く位だ、相当な圧が掛かっていたに違いない。


「祐介、祐介、起きろ」


 リアムは祐介の頬をいつもの様にぺちぺちと叩くと、祐介の焦点の合わない目が薄っすらと開いた。ただでさえ寝起きが悪いのに、寝不足だから今日はかなり起こすのに苦労するかもしれない。リアムは覚悟した。


「祐介」

「んー」


 目覚ましは鳴りっぱなし。祐介の腕は腰にしっかりと回され、目覚まし時計は届きそうにない。


「祐介、こら起きろ」

「もうちょっと」

「もうちょっとではない、今日も仕事だぞ」

「……すー」


 全く起きない。さてどうしたら起きるか。そこでリアムは考えた。祐介が昨日からやたらとキスしていいかとかキスしてとか言ってくるのは、人との接触に飢えているからに違いない。であれば、それを餌にベッドの外に呼び寄せれば、さすがにこの寝起きの悪さだから飛んでくることはないだろうが、もしかしたら起き上がり位はするかもしれない。


 リアムは祐介の腕を掴んで力一杯剥がすと、ベッドから降りてとりあえず目覚まし時計を止める。そして、テレビの前まで行き、仁王立ちしてベッドで寝ている祐介に声を掛けた。


「祐介! 私が5を数える間に起きるなら、私にキスすることを今だけ特別に許可してやろう!」


 祐介の身体がピクッと反応したのを見たリアムは、案外これは拙いかもしれないと思い慌てて数え出した。


「5!」


 祐介が目を半分開けた状態で、ガバっと起き上がった。


「4!」


 辺りを見回して、自分のいる場所を確認している様だ。


「3!」


 リアムを探しているつもりか、ぐるっと振り返り、リアムを見た。顔には勿論痕が付いている。


「2!」


 祐介がベッドの上で立ち上がった。頭が天井に付きそうである。


「1!」


 拙い、降りてきた。0はちょっと早めよう。


「ゼ……」


 祐介がリアムの元まで飛んできた。


「間に合った!」


 祐介はバランスを崩して後ろにひっくり返りそうになったリアムの肩をがしっと掴んで支えると、片方の手でリアムの後頭部をしっかりと掴み、前屈みになったかと思うと、リアムの唇を奪った。


 軽めのキスのつもりで言ったのだが、考えてみればそんなことはひと言も祐介に伝えてはいない。従って、祐介は己が望む仕様のものを遠慮なく選択することにしたらしい。


 つまり、前回のあれと一緒である。いや、違う。それ以上だ。前回は舌を絡めるのが主であったが、今回は口の中を好き勝手になぞりまくっている。どうした祐介、そこまで飢えていたのか。


 リアムは動揺しまくった。なんせ気持ちいいのである。たかが口の中とこれまで大して気にもかけなかった口づけに、こんなものがあろうとは。娼館でまた来てと言われなかった理由はこの辺りにもありそうだ、とリアムは思った。


 恥ずかしながら身体が蕩けそうになり、力が抜けていったところで、ようやく祐介が顔を上げたのだった。

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