第513話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略二日目の昼飯の続き
早川ユメは、実に素敵な笑顔を持つ女性だった。
暫く続いていた笑顔が引っ込むと、椅子に寄りかかり言った。
「とりあえず、あんたが普通の女じゃないっていうのは分かったわ」
確かに普通ではない。中には男のリアムが入っている。
「分かっていただけてよかった」
すると、早川ユメが微妙な笑みを浮かべながら、リアムに言った。
「でもまだ信用出来ない」
「それはそうだろうな。私達は互いのことを知らなさ過ぎる」
リアムがあっさりとそう答えると、早川ユメが不敵な笑みを浮かべた。
「へえ……面白いじゃない。じゃあ勝負をしましょうか」
「勝負? どんなものだ?」
「あんた酒は弱いんだっけ?」
リアムはこっくりと頷いた。すると、早川ユメが不敵な笑みを浮かべたまま続ける。
「奇遇ね。私もなのよ」
「……ほう?」
早川ユメはいったい何を提案しようとしているのか。リアムは首を傾げた。
「じゃあ、先に吐いたら負け」
「……吐くまで飲むつもりか」
「吐いたら、言えないことも吐けそうでしょ」
「確かにな」
この早川ユメという女は、馬鹿ではない。リアムはそう感じた。
「あんたさ、人に言えないことがあるんじゃないの」
「……何をもってそう思った」
「私、そういうのを見抜くの得意なのよ」
早川ユメが、偉そうにふんぞり返りつつリアムを指差し言った。リアムは表に余計なものが出ない様気を配りつつ、静かに見つめ返す。
「……あるぞ、とっておきのが」
「あら奇遇ね、私もなのよ」
早川ユメは、後毛を指でくるくると巻く。これはもう乗らない訳にはいかないだろう。祐介は猛反対するだろうが、致し方ない。
「いつやる?」
リアムが問うと、早川ユメが艶然と笑った。
「やる気満々ね。そうね、今度の金曜日はどう?」
「問題ない」
「じゃあ金曜日で決まりね」
リアムが頷くと、ウェイターが料理を運んできた。美味そうな湯気を立てたスパゲッティとパンにサラダのセットだった。
「わー美味しそう!」
あざといばかりの笑みを浮かべ、早川ユメがウェイターに微笑みかける。若い男性のウェイターは、早川ユメの笑顔に頬が緩んでいた。笑顔だけで相手を魅了する。リアムには出来そうにない芸当だ。そう考えると、今朝祐介にやった色仕掛けの如何に直接的なことよ。
ウェイターが言ってしまうと、早川ユメの笑顔がスッと消えた。本当に見事である。
「あんたのあれ、連れてきてよ」
「あれ?」
「山岸くん」
祐介も、まさか自分のことを気に入っていると思っている早川ユメに『あれ』呼ばわりされるとは思ってもみないに違いない。
「いいが、どうしてだ?」
早川ユメが綺麗な所作でスパゲッティを口に含んでいく。成程、ああいう風にひと口に収まる程度にまとめればいいのか。
「だってこんな美女二人が酔い潰れてご覧なさいよ。まあ確実にどっかにお持ち帰りされちゃうわよ」
「美女二人……」
「今のあんたは十分持ち帰られるレベルよ。まあ私の方が上だけど」
「なる、ほど」
「つまり護衛役兼介抱役よ」
「後程聞いてみよう」
嫌がる素振りは見せても、それでも祐介は来てくれるだろうこともリアムには分かっていた。
リアムがあっさりと頷くと、早川ユメが溜息をついた。
「あんたばっかりいいわよね。信頼出来るちゃんとした彼氏がいて。しかもイケメンだし穏やかだし」
早川ユメのその言葉には、寂しさが含まれている様にリアムには思えて仕方なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます