第432話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョンの地下九階のバトル後

 ウルスラとアールの怪我が治ったところで、ユラは地図を広げ次の階へと続いている階段までのルートを探した。


「最短ルートで行こう」


 皆がユラのその意見に頷く。すると、アールが若干疲れた様な顔をしつつ、言った。


「ここまでずっとファイヤースパイダーしかいなかったのは、親がこの階にいて子供が増え続けてたからなんだなー」

「ファイヤーウルフなんか一匹もいなかったわよね……もう夕方よ、ご飯どうするのよ」


 ウルスラがお腹を押さえながら言った。するとタイミングよく、きゅるる、と鳴った。


「多分だけど、モンスターが侵入しない十階の先にはそういうのがいるんじゃね?」

「可能性はあるわね。じゃあとにかく一回下へ降りましょうか」

「だな」


 話は決まった。


「サツキもそろそろ休ませてあげたいしな」


 ユラがそう言って手を繋いだままのサツキを見て笑った。そうだ、石を手の間に挟んだままだった。


「ユラ、ちょっと石確認するから」


 するとユラが素直に手を離してくれたので、サツキは手の中にある石を見てみた。ほんのり小さくなった様な気がするが、気の所為だろうか。


 ユラが覗き込んで、言った。


「……縮んだな」

「やっぱり?」

「これって使っていくと縮むんだな。石鹸みてえだな」

「確かに」


 上級魔法一回でほんのり縮んだということは、まあまだそこそこそれなりに使えるのだろう。


「まだあと三十階もあるからな……。これなら、ボス戦に温存しておいた方がいいかも」

「使いたい時になくなってると怖いもんね」

「サツキを危険な目には合わせたくねえもんな」


 ユラはそう言うと、サツキの肩をポンと叩いて笑った。


 すると、ウルスラが呆れた様に二人を交互に見る。


「ユラって本当サツキ限定で優しいわよね。何で?」


 ユラは躊躇せず即答した。


「サツキは信じられるからな」

「え?」


 どういうことだろうか?


 ユラが続けた。


「つく嘘も自分に損なことばっかだし」

「え? そんなことないけど」

「全部顔に出てるし」

「いや出してないし」

「それに俺のことを信頼してくれてるからな」


 まあ、それはうん。している。


 なのでサツキは言い返さなかった。すると、ウルスラが意外そうにサツキを見た。


「え、本当? このユラを?」

「え、ウルスラはしてないの?」

「いやまあ、仲間だから多少はしてるけど」

「た、多少?」


 それは驚きだ。普段の態度はともかくとして、サツキはユラの知識と、サツキを見捨てはしないという点ではユラを完全に信頼している。


 真っ黒焦げのリアムにキスまでして治したいという話を聞いて、余計信頼度が上がった。


「ユラは信頼出来るよ」


 サツキがそう言うと、ウルスラは怪訝そうな顔に、ユラは物凄く嬉しそうな顔になった。アールはぽやっとしている。うん、まあいつも通りだ。


「こういうところだよ、こういうところ」


 すると、ウルスラは納得した様に腕組みをしつつ頷いた。


「確かにサツキは純情っていうか真っ直ぐっていうか、アールとはまた違った素直さがあるわよね」

「アールは素直なんじゃねえ、単純なんだ」

「確かに!」


 ウルスラとユラが笑い合っているが、笑われているアールはにこにこしているだけだ。この人も、ある意味大物かもしれなかった。

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