第430話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョンの地下九階のバトル

 辺りが瞬時に暗くなると、炎を纏う蜘蛛達の姿だけが浮き出てきた。すると、地下深くからゴゴゴ、と振動が響いてくる。


 ユラが大丈夫だと言った。ユラと手が繋がっている。だからサツキは、前を真っ直ぐに向いたまま待った。


 突如、地響きと共に背後から雪崩れが激流の如く前方へと襲いかかった! 地面は激しく揺れ、圧縮された雪が水色の氷の塊となり、蜘蛛達を次々とその身体に呑み込んでいく。


 その余りの迫力に、サツキは一瞬意識を呑まれそうになった。すると、ユラが手を引っ張った。


「俺がいる! しっかりしろ、サツキ!」


 何故この人は、見てもいないのに分かるのだろう。


「うん!」


 ユラのその声に励まされ、サツキは再び前方に集中した。もし術者が途中で気を失ったりしたら、魔法は一体どうなるのだろうか。前を見ろと繰り返し言われるところを見ると、きっと中途半端に途切れてしまうのかもしれなかった。


「――終わるぞ!」


 ユラが言った途端、ふ、と再び赤い光が戻ってきた。本当に何故この人は分かるんだろう。サツキが感心していると、隣のユラが舌打ちをした。


「親がまだ残ってやがる」

「え!?」


 サツキは氷の壁となっている子蜘蛛達の奥に、未だ炎を纏って蠢く親蜘蛛を見つけた。かなり弱々しい動きではあるが、これは。


「子蜘蛛が壁を作って親蜘蛛を守ったんだな」


 子蜘蛛は殆どが消え失せ、残ったものの命も風前の灯火の様だ。今回は太陽の石は落としていないところを見ると、やはり氷系の魔法ではアイテムを落とさないらしい。


 でも、子が親を守った。そのことが、心にズンときた。


「ユラ! 親が逃げちゃうわよ!」


 背後からウルスラが声を上げた。ウルスラとアールは、こんな状況でもまだ襲いかかってくる子蜘蛛を相手にしていた。二人の身体には、あちこち火傷の痕が見える。


「駄目だ、遠すぎる」


 ユラの言う通り、親蜘蛛は子蜘蛛の影に隠れながらどんどん後退して行き、そして地面の闇の奥へと消えてしまった。


「強い奴は、逃げる時に下へと潜るって聞いたことがあるぞ」


 最後の子蜘蛛を切り捨てたアールが、体液の付着した剣をビュッと振り払い落とすと、ユラとサツキの元へと駆け寄ってきた。ウルスラも剣を納めると、背後に警戒しつつ走り寄ってくる。


「でも次の階って温泉階でしょ? モンスターはいないんじゃないの?」

「でもさ、モンスターが溢れて外に出ることがあるってことは、どっか俺達の見えない所に通路でもあるんじゃないのか?」


 アールにしては鋭い意見を述べた。そうだ、丁度その答えを知っていそうな子がいるじゃないか。サツキは足にくっついているラムに尋ねた。


「ラムちゃん、本当?」


 すると、ラムはこくこくと頷いた。


「あるんだ……」

「ダンジョンの新たな謎解明だな」


 ユラが言った。


「でもまあ考えてみりゃ、なきゃおかしいもんな」

「何だかぞっとする話ねえ」


 ウルスラが顔を顰めつつ言った。アールが須藤さんにお願いする。


「須藤さん、俺達を癒やしてくれない? 結構火傷しちゃったからさ」


 須藤さんは頷くと、ぴょんぴょん跳ねた後、くるりと宙で一回転を決め、二人を治したのだった。

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