第418話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン・ラムの能力

 地下二階にいたのは、殆どがこの子蜘蛛と思われるファイヤースパイダーだった。


 この階の地図はユラが持っているので、迷わず次の階へと続く階段まで来ることが出来た。次はいよいよ地下三階だが、ここで前衛と後衛の入れ替えを行なった。相変わらずサツキはユラの腕を掴まされている為、杖を持つ手を空ける所為で横を行くラムが寂しそうである。


 少ししょんぼりと項垂れつつ歩くラムに向かって、ユラが尋ねた。


「なあラム、お前って炎に触るとやっぱ溶けるのか?」


 すると、ラムがこっくりと頷いた。確かにスライムは全般的に何だか熱に弱そうなイメージがある。ラムの回答を見たユラが、ふむ、と考え込んだ。


「今度はどうしたのユラ」


 サツキが尋ねると、ユラが真面目な顔で答えた。


「いやさ、須藤さんもレベルアップしたし、そろそろうちらのラムにもレベルアップしてもらって追いつけたらと」

「何でいつの間に競い合ってるの」


 しかもペアに分かれて、これじゃ育成ゲームみたいだ。でもラムは現実にここにいて生きている存在だし、そんな競い合って育て上げるものでもないだろうに。


 サツキの表情が少し非難めいたものになっていたのだろう、ユラが口を尖らせてぶつくさ言い訳を始めた。


「だって折角前衛に出たなら、物理攻撃が出来そうなラムを強くするいい機会じゃねえか」

「それはまあそうだけど、溶けたら嫌でしょ」

「そうなんだよなー。このダンジョン、炎系のモンスターばっかだからなー。触れないと攻撃のしようがないもんなあ」


 だが、そこでサツキはとあることに気が付いた。


「でも、同じスライムでも須藤さんは魔法を使ってるよ。あれはどうして?」

「そういやそうだな。ラム、お前元々何と何が混じったんだっけ?」


 ユラが尋ねるが、ラムは喋れない。ワタワタとあれこれジェスチャーしているが、どれも要領を得ないものだ。


 サツキは記憶を呼び戻した。というか、この色を見れば答えは出る。あの時、同じ色のスライムはいなかった。赤のスライムはユラが叩いて棘うさぎを捕まえた所為で一緒に来るのを断念していたから。


「黄色と青で、緑だよユラ!」

「お?」

「絵の具と一緒だよ、黄色と青を足すと緑色になるでしょ! 何でこんな蛍光色になったんだかは分からないけど、そうすると黄色は……雷だよね?」


 パチパチスライムワインに入れる材料のあれだ。とすると、青は何だろう?


「だな。青は、多分水か氷系かどっちかだろ」

「じゃあそれ系の魔法が使えないのかな?」

「それはラムに聞いてみないとだな」

「どう? ラムちゃん、分かる?」


 すると、ラムは一所懸命ジェスチャーを始めた。一所懸命で可愛いのだが、よく分からない。そこでサツキはいいことを思いついた。


「ラムちゃん、喋れる様にしてあげる」

「え、おいサツキ、お前まさか」

「イルミナ! ユラ!」

「おいまじかよ」


 サツキがイルミナを唱えた途端、ラムがユラの姿になった。そして、蕩ける様な柔和な笑顔になって、サツキに抱きついてきたのだった。

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