第340話 OLサツキの中級編四日目、ギルド終了

 集まった依頼書は三枚。フレイのダンジョンのボス退治、火龍草の花の種の採取、それにファイヤーゴーストの火種の採取である。


 サツキはふとフレイのダンジョンの傾向に気が付いた。


「もしかして、炎系のモンスターがいるダンジョン?」

「正解! さすがサツキ!」


 ウルスラが手放しで褒めた。ユラが一同に確認する。


「誰かフレイのダンジョンに行ったことある奴は?」


 ユラとアールが手を上げ、ユラが続けた。


「前に別のパーティーでの依頼で行っただけだから、比較的浅い所までしか潜ってない」


 すると、アールがにかっとして言った。


「俺もさ、そん時のパーティーメンバーが腹壊しちゃってよ、あと次の階でボスだったって所で断念した」


 腹痛でリタイア。それは何とも切ない。


 ウルスラが聞いた。


「深さはどれ位? 注意事項とか、用意しとく物とかある?」

「ある」


 アールは真剣な顔で頷いた。


「ダンジョンの深さは確か四十階だったかな。とにかく暑いから、水筒持参。うちわもあるといいな。手ぬぐい必須だ」


 なんか小旅行にいくおばちゃんみたいになってきた気がした。


 ユラがサツキに言った。


「サツキはあの赤いローブあるだろ? あれを持っていくといいぜ。あとは……あー面倒くせえから一緒に支度してやる」

「あ、うん。お願いします」


 正直まださっぱりなので、ここは慣れているユラに任せるのがいいに違いなかった。前回は結局ウルスラが全部やってくれてしまったので、サツキはほぼ手ぶらだった。だがそれではいけない。


「次から自分で必要な物を判断出来るようになりたい!」


 サツキが抱負を述べると、アールが拍手してくれた。そんなアールをウルスラが横目で見る。


「あんたね、呑気に拍手してるけど毎回忘れ物一番してるのあんただからね?」

「何でか知らないけど、すっぽり抜けちゃうんだよなー。しかも今回母ちゃんがぐわーっと片付けたから、もうどこに何があるのかさっぱり分かんねえ」


 あはは、と頭を掻いて笑うアールの言葉を聞いたウルスラは、こめかみをそっと押さえていた。頑張って、リーダー。サツキは心の中で応援した。そういえばフルールの羽根も毎回忘れてきていたのも思い出した。クラスに一人はいた、忘れ物が多い男子。アールは正にそんな印象だ。


 ウルスラが諦めた様に言った。


「分かった分かった、私が支度を手伝うから」 

「え? まじで!? 助かる! ありがとな、ウルスラ!」


 明らかにホッとした風のアールの笑顔に、ウルスラは呆れながらも笑顔に戻った。


「じゃあ皆、明日ギルドで今ぐらいに集合ね。いい?」

「うん!」

「へいへい」

「おう!」


 ギルド前で別れた一行は、各々の家に向かうことになった。


 ウルスラがユラといるサツキをチラ、と心配そうに見たので、サツキは安心させる為に頷いてみせた。とりあえず明日からは皆とまた一緒だから、今日はユラに支度を手伝ってもらったら、自分の家に帰ってもらえばいい。そうすれば、暫くはドキドキする生活から離れられる。


 アイドルは遠くから愛でるのがいいんだから。


 サツキは小さく頷くと、突っ立って待ってくれていたユラの元に駆けて行った。

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