第338話 OLサツキの中級編四日目の依頼書選定終了
サツキとユラがくだらない言い争いをしていたところ、背後からアールの明るい声が呼びかけてきた。
「何かいいのあったかー? こっちはしょぼいのばっかりであんまりだったー!」
「皆金額が低すぎるのよ。もっと気前のいい依頼主はいないもんかしらねえ」
サツキはふとユラの親の依頼書を思い出した。確かあそこに書かれていた金額はそこそこいい金額だった。あのサイコじみた文書でなければ、本気で探そうとする冒険者ももしかしたらもっといたかもしれないが、如何せんあの異常な文章の所為で冒険者を寄せ付けていない。が、ウルスラ辺りにそんなことを話した途端、下手すると縄を括り付けてでも連れて行ってしまうかもしれないな、とふと思ってしまったのだ。
ユラがあの実家に帰ってしまったら、もう二度と会えなくなる気がした。それはちょっと嫌だな、そう思ったので、サツキはユラに言われた通り、ウルスラにもアールにもあの依頼書の存在は隠すことに決めたのだった。
「こっちにフレイのダンジョンの依頼があって、まあまあって金額だ」
「フレイ……中級だっけ?」
ウルスラが尋ねる。
「そうだ。温泉付きだ」
ユラが答えると、ウルスラが早速こちら側の壁を片っ端から見始めた。
「フレイのダンジョンに関係する依頼書を掻き集めるわよ!」
「ウルスラって温泉好きなんだね」
サツキが言うと、ウルスラはうんうんと首を縦に振って大いに肯定した。
「あれぞ正に戦士の休息よ!」
「私も次はウルスラと女湯に行こうかなあ」
「え! そしたら背中流し合いっことか……え、あの胸をちょっと触ったりとか……うへへ」
「止めようかな」
「嘘! 嘘だから!」
「触るのはなしね」
「……分かった」
ウルスラは下唇を出していじけているが、それでもウルスラ相手にならサツキだってこれだけ主張出来るのだ。ユラにも大分慣れてきたし、あとはアールとちゃんと打ち解ければ、パーティーメンバーと、とりあえずは馴染んだと言えるのではないか。
「こっちにもあったぞ!」
「これもいるモンスター的にいけんじゃね?」
各々が持ち寄った依頼書の金額を合計し、割る四したウルスラが頷いた。
「これならとりあえず暫く生活出来るわ」
「俺はなあ、家賃が高いからなあ」
ユラがぼやいた。リュシカさん、どれだけぼったくっているんだろうか。
「いいかサツキ」
サツキの視線に気が付いたユラが、悔しそうに言った。
「どんなに辛くとも、リュシカにだけは金を借りるなよ」
「どんだけ利子ついてたの……」
「言いたくねえ……」
トイチどころでは済まなさそうな感じなのかもしれない。下手すると二割、いや三割とか……。
「あいつは知り合いだろうが容赦ねえ。払う時は現金払いだ。分かったな」
「肝に銘じます」
苦労した人間の言葉は真摯に受け止めるべきだろう。サツキは深く深く頷いたのだった。
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