第332話 OLサツキの中級編四日目、今後の予定
サツキが考え込み始めると、ウルスラがサツキの顔を心配そうに覗き込んできた。
「どうしたのサツキ?」
「え? あ、ううん大丈夫」
「そう?」
サツキはウルスラを安心させる為に小さく微笑んでみせた。これは今ここで考えても仕方のないことだ。だけど、後で家に帰ったら調べる価値はあった。これが、リアムとコンタクトを取る手段のヒントになるかもしれないから。
「じゃあ、今後の予定を決めます」
ウルスラが指揮を取った。さすがはイケメンパーティーのリーダーだ。この中で一番凛々しいかもしれない。
「まず、私からの要望があります」
ウルスラはそう言うと全員を見回した。その表情はとても真剣だ。何だろう。サツキは固唾を呑んでウルスラの次の言葉を待った。
「報酬がいい
「賛成!」
ユラが即座に挙手した。ここにもいた。金に困っている奴が。
「あ、さっきあそこに中級ダンジョンのボス退治の依頼書が貼ってあったよ」
サツキが依頼書が貼られている壁まで駆け足で行くと、ユラもふらっと気軽な感じでついてきた。一瞬ウルスラの顔が歪んだ気がしたが、怖いので見るのを止めた。
「どれ?」
ユラが至近距離に近寄ってきた。この人はちょいちょい近い。それにしてもやっぱりイケメンだなあ、とつい見惚れてしまうから至近距離は怖いのだ。
「こ、これ」
「どれどれ、報酬はまあまあだな。――お、フレイのダンジョン! サツキ、ここも温泉付きだぞ!」
「え!! それ本当、ユラ!」
サツキは思わずユラの肩をガッと掴んだ。一瞬驚いた顔をしたユラだったが、直後に破顔した。うおう。やばい。トス、と心臓に天使の矢が刺さった様な音が聞こえた気がした。これは至近距離は駄目なやつだ。
「本っっっ当、サツキは温泉好きだよな!」
はは、と笑うユラが眩しくて眩しくて、つい目を背けてしまった。
「なあんで目を逸らすんだよ。傷つくんだけど」
途端、ユラが唇を尖らせた。いやいや、それも可愛いからちょっと本当至近距離は止めて欲しい。
「いや、その、あの、えへっ」
「……あ、まさかサツキ、俺のこと格好いいとか思ったり?」
ニヤリとユラが笑ったが、サツキはそれについては否定した。
「格好いいは思ってない」
「うおう……今純粋に傷ついた……」
わざとらしく胸を押さえて、ユラが俯いてしまった。別に傷つけるつもりはなかったけど、はっきり言うのもあれかも、でも言った方がこの場は丸く収まりそうだ。勇気を出せ、出すのよサツキ!
「……か」
「か?」
駄目だ、言えない。
サツキが一歩引いて逃げようとすると、ユラがサツキの二の腕を掴んで引き止めた。
「続き、聞きたいんだけど」
明らかにおねだりしている風のその顔と声に、サツキの中の可愛いもの大好きゲージがマックス値を記録した。クールビューティーのおねだり。もう堪らない種類のものだ。
「可愛い……!」
思わず口走っていた。きょとんとするユラ。
「あ、しまっ……」
「サツキさ、可愛いが一番好きなんだよな?」
二の腕をがっちりと掴んだユラが、ニタリと笑った。
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