第331話 魔術師リアムの中級編五日目の温泉街

 改札を降りると、そこには異国情緒溢れる街並みが広がっていた。


「少し歩いてみようか?」

「ああ、そうしよう」


 人が多いので、祐介の影に隠れる様にして歩道を行く。すれ違う女性達の視線がやたらと祐介にいっているのは、気の所為だろうか。


「祐介、お前はこの辺りでは有名なのか?」

「はい?」


 祐介が素っ頓狂な声を出して振り返った。


「なに言ってんのサツキちゃん」

「先程から皆祐介のことをチラチラと見ているではないか。あ、ほら今も!」


 三人程の若い女性のグループが祐介を見ていたが、こちらがそれに気付くとさっと目線を逸らした。


「……あー」


 祐介は分かった様だ。


「ていうかさ、サツキちゃんイケメンだって豪語する位なんだからこういう視線って感じてたんじゃないの?」

「こういう視線?」


 リアムは基本、道を行く時は前を向いて歩く。よって周りの人間の視線は入らない。


「はて」

「……うん、まあそうだと思った。そうだよね、サツキちゃんてそういう感じだもんね」


 何か含みのある言い方の様に聞こえるのは気の所為だろうか。


「基本私は口頭で伝えてもらいたい方ではある」

「読めるは読めるけどね、読み方微妙だしね」

「何の話だ?」

「鈍感って話」

「鈍感!? 私がか!?」


 心外だったので、反論することにした。


「私だって気付くぞ! 電車に乗ると男達が私の胸に視線を集中させるのも知っているしな!」


 リアムがそう高らかに言うと、祐介の顔が思い切り歪んだ。


「うわ……それまじ?」

「祐介は気付かなかったのか?」

「……うん。え、そんな見られてるの? うっわー嫌だな」


 心底嫌そうな顔をしている。


「何故祐介が嫌なのだ」

「嫌でしょ」

「まあ気持ちのいいものではないな」

「じゃあ僕も嫌」


 成程、リアムが嫌だろうと思ってのこの表情か。やはり祐介は思いやりのある人間だ。


「サツキちゃんはさ、僕が通りがかりの人にジロジロ見られるとどう思う?」


 祐介がリアムを見下ろして聞いた。微かに感じる、何かを期待しているかの様な雰囲気。さて何を期待しているのだろうか。


「それが羨望の眼差しであれば、隣にいる者としては誇らしい。それが蔑みの眼差しであれば、隣にいる者として戦うことも辞さない」

「戦うの? 見てる人と?」

「当然だ」


 リアムは祐介を真っ直ぐに見た。


「私は祐介の隣にいることに誇りを持っている。それを馬鹿にする様な者がいたら怒るのは当然であろう」

「サツキちゃん……」


 祐介は感動した風に瞳を輝かせているが、祐介は自己評価が低いのではないか。


 なのでリアムは言った。


「祐介、自信を持て。祐介はとても素晴らしい人間でいい男だ」


 祐介が驚いた顔をし、暫く黙っていたが。


「……サツキちゃん、ずっと一緒に居たいと思ってくれてるってことかな?」


 少し頬を赤らめた祐介が、ボソボソと言った。

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