第326話 OLサツキの中級編四日目の喧嘩
暫くしてユラがサツキを解放すると、喚き続けていたウルスラがようやく喚くのを止めた。
「ちょっとユラ! あんたも何かサツキとやけに距離近くなってんじゃないの!」
「別にいいだろ、同じパーティーの仲間なんだから」
「うっ」
ウルスラが詰まると、ユラがもう一度欠伸をしながら続けた。
「それにサツキは俺の可愛い生徒だからな、可愛がっても何の問題もねえ」
な? と微笑みかけられても、そうですと言える訳もなく。サツキは無言を通した。すると、ウルスラが苦々しげに吐いた。
「へっぽこ僧侶が」
「……何だって?」
ユラの顔から笑顔が消えた。ああもう、この二人はまた! サツキは二人を止めるべく、慌てて間に割り込んだ。アールはいまいち状況が掴めていないのか、やはりぽやっと笑っていた。駄目だこいつ。
「二人ともやめて!」
するとユラとウルスラが交互に主張し始めた。
「だってよ! 今の聞いただろ!? 完全に俺のこと下に見てやがってさ、こいつのこういう所が嫌なんだよ!」
「なんですって!? あんただって自分がどれだけ気分屋でいつも周りを振り回してるか分かってないんじゃないの!?」
「俺がいなきゃ回復だって出来ねえだろうが!」
「私がいなかったらドラゴンだって倒せなかったでしょうが!」
須藤さんがテーブルの上でぴょんぴょんと跳ね出し、くるんと宙を一回転すると、喧嘩を始めてしまったユラとアールの頭の上に緑色の光が降ってきた。須藤さんの技、状態異常解除付きヒールライトだ。するとやはり効果があるらしく、それまで怒鳴り合っていたウルスラとユラがぴた、と止まった。凄いぞ須藤さん! サツキは心の中で絶賛した。
「……ごめん、ちょっと熱くなり過ぎた」
ウルスラが先に謝った。
「……ああ、俺も。悪かった。でも、へっぽこだけは止めてくれよ」
「ごめん、よくなかった。もう言わない」
お互いむすっとしながらも仲直りを始めた。物凄い効果だ。そして二人共、きちんとした大人なのだ。誰かに面と向かって怒ることすらなかなかハードルが高いサツキにとっては、怒った上で仲直りが出来る二人の関係が純粋に羨ましいと思った。
思わずポツリと呟いた。
「いいな、そういうの」
するとユラが、
「どうした? サツキ」
とサツキを見上げてきた。もう怒っている感じはどこにもない。ウルスラもきょとんとしてサツキを見ているので、サツキは思い切って言ってみた。
「私も誰かと喧嘩とかして、それで仲直りしてみたいな、なんて……」
すると、サツキの左手をユラが掴み、反対の手をウルスラが掴んだ。二人共、何とも言えない生暖かい目をしているのは気の所為だろうか。
「安心しろ、俺がそれになってやる」
「私もサツキと喧嘩して仲直りしたいわ」
二人にじっと見つめられてしまい、サツキはどうしていいか分からなくなり目を伏せた。
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