第302話 OLサツキの中級編四日目、久々のパーティー全員集合はまだ遠い

 あ、そうか、といった表情を浮かべたユラが、サツキの背中を押して誰もいない広間へと誘導しつつ、こそっと教えてくれた。


「わりい、説明しなくちゃ分かんねえよな。魔術師ってのはまあ皆憧れて目指したりするんだけどさ、如何せん使える魔法の殆どが中級魔法と上級魔法なんだよ。となると、かなりの魔力量の持ち主でないと魔術師は務まらない。且つ、適性もないと唱えることが出来ても失敗が多かったり効力が弱かったりするんだ」

「へえ……」

「へえってそれお前、お前の身体にすっげえ魔力が詰まってるってことだぞ?」

「はあ」

「張り合いねえなあ」


 ユラが呆れた様に言った。これが今まで当たり前だと思っていたが、実はリアムはなかなかに凄い人だったらしい。


「前にざっと計算したら、上級魔法だけだと四回位唱えられたよ」


 シーフから逃げる時に必死で計算したあれだ。


「中級が上級の何回分なんだかは分からないから、正確にはちょっと分からないけど」

「中級三・四回で上級一回分位かな? 呪文にも寄るけど」

「てことは中級なら連続十二回から十六回唱えられるってことか」


 サツキが知っているロールプレイングのゲームとかよりは遥かに少ないようだ。


 サツキが首を傾げながら話を聞いていると、ユラがテーブルへ座るよう促した。二人は広間の奥にあるテーブルに座る。前にアールとユラがブラインド不可視の魔法でどんよりしていたあの席だった。あの日が遥か昔に感じてしまう。あれから随分と色々とあり過ぎた。主にユラと。


「サツキ、普通のレベルの魔術師はな、上級魔法は決め技なんだよ」

「決め技」


 ユラが非常に真剣な眼差しで意味を乗り出してきた。


「つまり、普通はサツキみたいにバンバン唱えるもんじゃねえってことだ」

「バンバン……」

「まあだから、魔術師と切っても切れない関係なのが魔力の回復を行うことが出来る僧侶な訳だ」

「そうなんだ」

「そうなんだよ」

「ちなみにユラの魔力は多いの? 少ないの?」


 曲がりなりにもドラゴンスレイヤーのパーティーだが、なんせ半ば二つ名と化している『へっぽこ僧侶』の呼び名が存在している。


 ユラがちょいちょいとサツキを呼んだ。サツキが耳を近付ける。あまりおおっぴらに話してはいけないことなのだろうか。


「サツキはどう思う?」

「へ?」


 何の為に呼ばれたんだろうか。サツキは思わず入り口の方を見たが、まだ二人共来ていない。するとユラがサツキの隣の椅子に移動し、肩を組んできた。


「サツキは俺が有能そうに見えるか?」


 顔が非常に近い。金色のまつ毛が綺麗で思わず見惚れてしまったが、水色の瞳と目が合って慌てて逸した。


「なあサツキ、サツキには俺がどう見える?」

「ど、どうしたの急に」

「いや? サツキの目から俺はどう見えてるのかなって気になって」


 囁く様に言われても。


「なあ、教えてよ」


 懇願する様に、甘える様に言うユラのその言葉に、サツキの心臓は跳ね上がった。

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