第299話 魔術師リアムの中級編五日目はゆっくりと
ふう、と祐介が息を吐くと、ようやく笑顔になった。リアムはほっとした。説教が終わったのだ。
だがしかし、確かにやらかした。かなり激しくやらかした。これが祐介でなかったら、恐らくリアムは今頃無事ではいなかっただろう。
祐介の鋼の忍耐力には感謝しかない。
「もう少し酒に強い身体だったらよかったのに……」
元が酒好きのリアムである。ダンジョンの戦いの後の楽しみはモンスター飯と共に行なう酒盛りと言っても過言ではない。
すると、祐介が提案してきた。
「サツキちゃん、ノンアルコールビールっていうのがあるんだけど、それなら酔わないよ」
「の、のんあるこーる? 何だそれは」
「ビール味の酔わない飲み物」
「それは美味いのか?」
「飲んだことないけど、それならサツキちゃんも酔わずにビールを楽しめるよ」
「おお……!」
「ていうかそんなに飲みたいんだね」
祐介が呆れた様に、でも仕方ないなといった風に笑う。リアムの我儘を許してくれる時のこの笑顔。リアムはこれが好きだった。
「今夜試してみよう!」
「はは、分かったよ。じゃあとりあえずシャワーを浴びてから朝ごはんにしようか」
「またあの朝マックなるものがいい」
「いいよいいよ、じゃあ……その格好じゃあれだなあ。サツキちゃんちからジーンズ持ってくるから待ってて」
Tシャツの下は下着一枚である。これで外に出てはさすがに拙いのはリアムにも分かったので、素直に頷いた。
「頼む。済まないな」
「いえいえ」
祐介が鍵を持ってにこやかに出て行った。本当に何から何まで申し訳ないが、祐介に守られている様に感じるこの心地よさといったら、これまでに感じたことのない種類のもので、やめられなくなりそうな中毒性があった。これは拙い。でも祐介といたい。だが祐介はリアムと違って普通の男だ、いつまでもこうしている訳にもいかないのも分かっていた。
だが、離れ難い。
だから羽田の件がまだあってよかったと思ってしまうリアムは酷い人間だろうか。かつてこれまでこんなに誰かに執着したことがあっただろうか。
それが怖かった。
ふと耳を澄ますと、隣からガサガサと音が聞こえた。安定の壁の薄さである。目的の物が見つかったのか、玄関の扉を開ける音がして、そして。
「何でお前がそこにいるんだよ!!」
「うわっ!」
唐突な怒鳴り声と共に、ドン!! という壁にぶち当たった音が振動と共に鳴り響いた。
「あんたまたサツキちゃんちの周りを彷徨いて!!」
「先輩に向かってあんたはねえだろおがあっ!」
羽田と祐介の声だった。あいつが、あいつがまた来たのだ。
ドン! ドン! というぶつかる音と共に、祐介の呻き声がした。
「祐介!」
リアムは夢中で家の外に出た。
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