第295話 魔術師リアムの中級編四日目、帰路へ

 飲み会はお開きの時間となった。


 橋本がこれから何をどうするか、週末にゆっくりと考え週明けにでもメールにて連絡をするとのことだ。元ラガーマンとは、頼りになるべき存在らしい。


 まだ足元がふらつくリアムの腰を支えながら立つ祐介が、潮崎に尋ねた。


「塩崎さん、僕達は帰りますけど塩崎さんは?」


 すると、潮崎はひょろひょろの身体についた優しそうな顔をほころばせながら言った。潮崎の後ろには木佐ちゃんが立っている。


「ん、ちょっと二人で二次会に」

「分かりました。じゃあサツキちゃん、タクシー拾おうか。電車きつそうだもんね」

「タクシー?」

「うん、まあいいや。――じゃあ潮崎さん、木佐さん、今日はお疲れ様でした。ごゆっくり!」


 祐介がにこやかに言って手を振ると、木佐ちゃんが真っ赤になった。潮崎は照れくさそうに頭を掻いている。道路の方に半ば引っ張られながら、リアムは隣の祐介に聞く。


「あの二人は付き合っているのか?」


 すると祐介が首を傾げた。


「さあね、さすがにまだじゃない? でも、これからはそうなりそうだよね」

「大分年は離れているのだったか?」

「十歳位離れてるんじゃなかったかな? でもさ、いいじゃんそういうの」

「いい?」


 祐介が笑みを浮かべながら頷く。


「年齢差なんて関係なく、お互いがお互いを好きってことでしょ。いいなあ、そういうの」


 祐介が本当に羨ましそうに言うので、リアムは先程の気付きを祐介に伝えることにした。


「先程な」

「うん? あ、ちょっと待って」


 タクシーなる車が前に停車した。祐介がリアムを先に乗せ、自分も後から乗り込んだ。住所を伝え、お願いしますと運転手に伝えている。成程、タクシーとは乗合馬車の様なものか。


 車の扉がバタンと閉まると、祐介はリアムを引き寄せふらつかない様にしてくれた。


「ごめん、で、何だっけ?」

「先程な、気付いたのだ」

「うん?」


 リアムは目を閉じながら、祐介の体温を感じながら口にした。


「祐介が、いつの間にか私の心に空いていた穴を埋めていたことに、先程気が付いた」

「え……」

「祐介という人間が好きだ」


 祐介が息を呑む音がした。


「だが、いつまでもこうして祐介の隣にいると、祐介が困ってしまうだろう?」

「え? 何言ってんの」

「祐介の隣にずっといたいのはやまやまだが、それは私の願いであってただの我儘だから、だから羽田の件が片付き危険が去ったら、その時までには祐介を解放出来るよう、努力する」


 非常に寂しいが、祐介にいつまでもしがみついている訳にもいくまい。祐介には祐介の人生がある。


 すると、祐介がふっと笑った。


「サツキちゃん、全然僕のこと分かってないなあ」

「分かっているぞ。祐介は優しくて寂しがり屋のお人好しだ」

「お人好しなんかじゃないよ」

「この様な面倒な私といること自体がお人好しの行動ではないか」

「……まだその程度の理解か」

「ん? 何か言ったか?」

「言ったよ」

「では何と言った?」

「僕がサツキちゃんを離したくないから隣にいるんだよ」


 祐介が頭の上からそう言った。

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