第280話 OLサツキの中級編三日目夜の星空
キュッキュッと指の腹で触れると音が出るくらいまで洗い物をしっかりとやったサツキは、手についた水分を拭き取ると近くでゴロゴロしていたラムに声を掛けた。
「ラムちゃん、終わったよ!」
ラムがにこにこと飛んできて、サツキの手を握った。辺りを見回すと、ユラがあちこちの部屋をキョロキョロとしている。カーテンを閉めて回っているらしい。サツキはこれまで寝室のカーテンしか閉めていなかったが、確かにちょっと不用心だったかもしれないなと思った。
「うーん、あと何処が足りないんだ?」
ユラが腕を組んで悩んでいる。どうしたんだろうか。サツキとラムは、書斎を行ったり来たりしているユラに声を掛けた。
「ユラ、何悩んでるの?」
「ああ、サツキは知ってるか? この家のカーテンなんだけど。ちょっと来て」
ちょいちょい、と手で招き寄せると、一つひとつ移動しながら指で差していく。
「書斎のカーテンだろ?」
「うん」
廊下を通って寝室へ移動する。
「寝室のカーテンだろ?」
「うん」
また廊下に出ると風呂場を通り過ぎて台所へ到着。
「台所の流しの所と、井戸に続くドアの所だろ?」
「うん」
「あとは何処にカーテンがあるんだ?」
「何でカーテン閉めてるの?」
「それは後でのお楽しみだ」
「お風呂場」
「ああ!」
ユラは走っていくと、風呂場の上の方に付いている小窓の小さなカーテンを閉めた。サツキとラムはその姿をのんびり歩きつつ見守る。焦っているユラなんて、なんか珍しくて面白いかもしれない。
ユラは今度は寝室に走っていくが、少し覗いてまた首を捻りつつ戻ってきた。
「まだあるらしいぞ」
「バスタブのカーテン閉めた?」
「それだ!」
獅子丸がいるバスタブには、シャワーカーテンの様な物がついている。あれもカーテンの一種には違いない。
ユラが走って風呂場に駆け込み、シャッという音を立てたと思うと、また走って寝室へと向かった。あれだけ酒を飲んだ後にこんなに疾走して大丈夫なんだろうか。
寝室に入って行ったユラが、今度は戻って来ない。サツキとラムは顔を見合わせた。今度はどうしたんだろう。
すると、寝室からユラがひょっこり顔を出した。頬が紅潮している。走り回って酒が回った所為だろうか。
「サツキ、来て」
「うん?」
ユラに促され、サツキはラムと一緒に寝室へと一歩踏み入った。すると。
「うわあ……!!」
天井一面に映し出されていたのは、深い宇宙の漆黒の闇に浮かぶ星々だった。そこに天井の壁は見えない。まるで本当に空を見上げている様に見えた。
「サツキ、ほら、ベッドで寝転んで見ようぜ」
ユラの声がはしゃぎまくっている。成程、星空を見せると言っていたのはこれだったのか。ユラに言われるがまま、そこそこ大きいベッドの上を這いずって奥に進んだ。ボフッと仰向けに勢いよく倒れ込むと、そこには完璧なまでの宇宙が広がっていた。
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